両片想いーymmtー ページ1
(山本さん視点)
今日もあの家に帰るのか……。
｢はぁ……。｣
｢山本さん、どうしました？｣
俺のため息が聞こえたのか、こうちゃんが俺の方を心配そうに見た。
｢いや、なんでもないよ。｣
俺はとりあえず笑って誤魔化し、帰り支度を始めた。
これは俺のプライベートな問題。
そう割り切って挨拶をしながら会社を出た。
ガチャッ
｢ただいまー。｣
｢おかえりー。｣
家で迎えてくれる彼女は俺の恋人……ではなく幼なじみ。
同棲してるのではなく、ルームシェアをしているのだ。
｢あ、今日引越し先決めてきたー。来月には引っ越すよ。｣
｢そっか。良かったね。｣
なんて、他人事のように言うのは、実際ほとんど他人事だから。
彼女はこの家を出ていく。
それは、僕の他に恋人がいるわけでも、他の誰かとまたルームシェアする訳でもない。
ただ、純粋に一人暮らしがしたくなって、その金銭的余裕が出来たからだ。
そもそも今の状態だって、もっと他のことにお金を使いたい僕らの利害と、幼なじみという特権があったからこそだ。
けれど、僕はずっと彼女の事が恋愛として好きだ。
伝えられていないけれど。
でも、引き止めるために彼女に伝えたとしても、むしろ俺を避けるために出ていくだろう｡
結局は負け戦なのだ。
言わずに現状維持か、言って決別するか……僕が選べるのは前者しかない。
言う勇気は、僕にない。
｢あー、でもまた祥彰と離れるのは寂しいね｡｣
僕らは小中で一緒だったが、高校で一旦離れている。
大学に入ってまた一緒に過ごすようになったのだ。
｢中学校卒業する時、A大泣きしてたもんね。｣
どうせ家は近所ですぐに会えるというのに、Aは俺の制服の袖を掴んで泣いていた。
｢大泣きまではしてないでしょー？｣
彼女は恥ずかしそうに顔を逸らした。
｢えー、大泣きしてたよー。一応同じ高校受験したけど、お互い第1志望校違ったし、お互い受かって別れるの分かってたのにさー。｣
｢仕方ないでしょー、あの時はずっと一緒にいた人と別れるのが寂しかったんだから。｣
｢そして今も寂しい、と？｣
俺は意地悪をするように、じわじわと詰め寄る。
｢寂しいよ。……けど、もう後戻り出来ないし。｣
彼女の意味深な言葉に、俺の体は固まる。
｢後戻り出来ないって、どういうこと？｣
彼女は慌てて手と顔を横に振った。
｢ううん！なんでもないよ！気にしないで。｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (
レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました！fkrさんが詰め寄る感じいいですね！続編？半年後fkrさんとどうなっているのか気になります！ (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは！そういって頂けてとても嬉しいです！最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは！結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました！続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ！気に入っていただけて良かったです！！ (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：辰海恋歌 | 作成日時：2021年5月19日 16時
