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約束 ページ17

その週末、朝から電話で叩き起された。


「……はぃ。」

『眠そうだね。』


電話の向こうで福良さんが笑う。

食事を取らなくなってから、何故か睡眠時間も短くなった。

今日だって寝たのはついさっきで、まだ眠い。


『ちょっと緊急事態が起きちゃって今すぐオフィスに来て欲しいんだけど、出てきてくれないかな?』


少し切迫した福良さんの声を処理するのに、時間がかかった。


「……え。」


まず湧き上がってきたのは恐怖。

でも、それ以上に彼らの緊急事態なら何がなんでも行かなきゃという使命感もある。


『難しい?』

「いえ、行きます。30分ほどかかりますけど、それまで待てそうですか?」

『大丈夫。待ってる。』

「分かりました。」


電話を切ってフラフラしながらもテキパキ準備する。

10分程で身支度を整え、しっかりと須貝さんの容器を持って家を出る。

コケないように今出せる全速力でオフィスにたどり着く。


「お疲れ様です!何がありました!?」


勢いよく入ると、入口を山本くんに塞がれた。


「え?」

「A、ようやく来たね。」


のんびりと、それでいて鋭い眼光の河村さんが私の前に立つ。


「Aさんっ、心配したんですよ!」


あやかちゃんが、泣きそうな顔で私に近寄ってきた。

反射的に、そんな彼女を抱きしめる。


「ごめんね、緊急事態って言うのは嘘。河村に頼まれて。」


福良さんがお茶目に笑う。


「A、お前、酷い顔。」


伊沢くんが真顔で、声色だけは怒ったようにそう言った。

それは、私も毎朝鏡を見る度に感じていることだ。

日に日に痩せこけていく頬に濃くなっていく隈、正気を失っていく眼。


「A、とりあえずこっちに横になり。」


川上さんに腕を掴まれて硬直してる間に仮眠室の布団に寝転がされた。


「ごめん、俺が話していい?」


河村さんの言葉で、みんなが部屋を出ていく。

私はひとまず身体を起こした。


「A。」


名前を呼ばれて、河村さんの顔を見る。


「まず、騙してごめん。物理的に引っ張り出すのはA的にも辛いと思って、こんな方法をとった。」


私は首を横に振る。

むしろ、約束通りオフィスに連れ出してくれた河村さんには感謝している。


「毛布、かけるね。」


河村さんが毛布を私の頭からすっぽり覆うように毛布をかけてくれた。

そして、ぎゅっと抱きしめられる。





━━━━━━━━━━━━━━━
続く。

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辰海恋歌(プロフ) - 朱夜さん» こんにちは。どちらも読んでいただけて嬉しいです。応援ありがとうございます。これからも楽しんでいただけますよう、尽力していきます。 (2021年5月22日 16時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
朱夜(プロフ) - こんばんは。 アフターストーリーと新作読みました。 どれも違った感じで楽しいです。 此れからも頑張ってください。 応援してます。 (2021年5月21日 23時) (レス) id: 34fb2aaacb (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - 朱夜さん» コメントありがとうございます!書きます!書かせていただきます!!新作もお待ちください!! (2021年5月18日 22時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
朱夜(プロフ) - こんにちは。 更新の度に楽しみにしてました。 もしアフターストーリーがあるのでしたら読みたいです。 新作も楽しみにしてます。 (2021年5月18日 12時) (レス) id: 34fb2aaacb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年4月28日 18時

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