＿＿＿＿ ページ16
｢……いただきます。｣
｢はい、どうぞ。｣
恐る恐る人参を口に運ぶ。
口の中に広がる煮物の味。
それと同時に、吐き気が込み上げる。
｢っ……っ……!!｣
どうにか水で流し込む。
｢食べるの、辛い？｣
せっかく作って持ってきてくれた須貝さんに悪くて、私は笑顔を作る。
｢いや、その……これは美味しいんですけど、吐き気が邪魔しちゃって……ごめんなさい。｣
｢謝らないでいいよ。……そういえば、記憶取り戻したんだって？｣
｢はい。｣
｢俺さ、Aの記憶が戻ったら言おうと思ってたんだ。……好き、Aの事が。Aが記憶を無くすずっと前から好き。｣
須貝さんの突然の告白。
私は嬉しいのに、悲しみの涙しか流せないことを悔しく思った。
黙ってる私に、須貝さんは悲しそうに笑いかけた。
｢大丈夫。答えなんて出さなくていいし、これは俺の自己満足だから。……だから、泣かないで。｣
涙を拭おうと須貝さんが手を伸ばす。
私は恐怖から、それを払い除けた。
パシッと音がする。
｢ご、ごめ、なさ……。｣
須貝さんは、もはや笑ってもいなかった。
徐ろに立ち上がった須貝さんは、私に背を向けた。
｢それ、ちゃんと食べるんだよ。せっかく記憶取り戻したのに、倒れちゃったらお兄さんもみんなも心配だからさ。じゃあ、おやすみ。｣
部屋を出ていく須貝さん。
私は立ち上がって転がるように部屋を出た。
｢須貝さん！｣
玄関のドアを開け立ち止まる須貝さん。
顔は、背けられたままだ。
｢煮物、ありがとうございました。｣
やっとこっちを向いた須貝さんは嬉しそうに笑っていた。
｢おう！じゃあ、ちゃんと容器返しにオフィス来いよ！｣
｢っはい！｣
バタン、と音を立ててドアが閉まる。
私はどっと押し寄せる涙に嗚咽をもらす。
この一週間で記憶の整理はついた。
ただ、気持ちの整理だけが一向にできない。
河村さんも、須貝さんも、大好きなのに、怖くて怖くて仕方がない。
吐き気が、止まらない。
涙が止まったあと、煮物の残りを食べたら少ししょっぱかった。
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次のお話へ。
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辰海恋歌(プロフ) - 朱夜さん» こんにちは。どちらも読んでいただけて嬉しいです。応援ありがとうございます。これからも楽しんでいただけますよう、尽力していきます。 (2021年5月22日 16時) (
レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
朱夜(プロフ) - こんばんは。 アフターストーリーと新作読みました。 どれも違った感じで楽しいです。 此れからも頑張ってください。 応援してます。 (2021年5月21日 23時) (レス) id: 34fb2aaacb (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - 朱夜さん» コメントありがとうございます！書きます！書かせていただきます！！新作もお待ちください！！ (2021年5月18日 22時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
朱夜(プロフ) - こんにちは。 更新の度に楽しみにしてました。 もしアフターストーリーがあるのでしたら読みたいです。 新作も楽しみにしてます。 (2021年5月18日 12時) (レス) id: 34fb2aaacb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：辰海恋歌 | 作成日時：2021年4月28日 18時
