31 微睡みと忍び声 ページ31
遠くの方で、物音が聞こえる。扉が開くような音にも聞こえたので、他にも病人がやってきたのだろうか。
「すんませーん、俺らのマネが……って聞いて」
「あら、サッカー部の……」
耳にしたことのある声だ。カーテンの向こう側に、誰がいるのだろう。気になったけれど瞼は重いまま、視界は暗闇の中だ。中途覚醒のような、不思議な感覚。夢の中、だったりして。
「貴方のその赤髪って地毛なの?……あ、丁度よかった。貴方達二人、ちょっとここにいてくれる?呼び出しがあって」
一人の足音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。いつのまにか頭痛はだいぶ治まっていて、怠さもあまり感じられない。それでも身体は起きることを拒否しているのか、石のように少しも動かない。
「……ちゃん、ここかな、」
「……っおい、開けたらあかんやろ」
「へいへい。ってか話戻るけど、それは完全にシッマが悪いわ」
「……分かっとるわ」
もう少し眠っていたい。ふわふわとどこかを漂っているような夢心地に、安息感が私を包む。
「てか、自分でももう分かってるんやろ?ただの後輩として見れてへんやん」
「……沈黙は肯定と同義やで?部長さんよぉ」
今日の夜ご飯はなんだろう。久しぶりにカレーでも食べたいなあ──そんなことを考えていると、再び意識が遠のいていく。
「俺は応援してるで?お似合いやわ、お前ら。くそ真面目なとことかそっくりやん」
「……うっさいわ。今はそんなんどうでもええ」
「はいよ。とにかくはよ仲直りしてくれや」
先程から続く誰かの話し声がやけに煩い。保健室では静かにするのが常識だと習わなかったのだろうか。雑音をシャットアウトするように意識を自分の中に集中させる。もう一時間だけ寝させて下さいと願う意識下の声は、どうやら口に出ていたらしく、周囲から音が消えた。
「……Aちゃん、ゆっくり休んでなぁ」
「……すまんな」
「お前やっぱアホなんか?ちゃんと起きとる時に謝れや……」
「うるさい言うとんねん、はよ行くで」
やっと静かになった空間で、更に意識が遠のいていく。今思えば、あの明るい声は副部長さんの声だったのかもしれない。話していた内容については何も覚えていなかった。誰か、怪我でもしたんだろうかと心配になるが、深く思考できるほど脳は覚醒していない。
おやすみなさいと言葉を浮かべた直後、私の意識はプツンと途切れた。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました(単純) (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - キャーknサンイケメーン((( 内容と作者様の書き方が好きです。!もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい!もうこれは全裸待機ですね!! (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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