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おい、なんて慌てた彼は無視をして、部室の中央にある古びたソファに座らせる。代々伝わっているらしい旧式の冷蔵庫から氷を取り出して、氷嚢を手早く作った。
「……腕、出してください」
氷嚢片手に仁王立ちをすれば、先輩も観念したように溜息をつきジャージの袖を捲った。
雑に巻かれたテーピングの隙間から覗いたのは、相も変わらず赤紫色の痣。むしろ酷くなっているようにも見え、言葉を失う。
試合に出続ける限り、接触は付き物だ。それでも彼が頑なに怪我のことを知らせないのは、勝つ為に自分が必要であると自覚しているのだろう。素人目の私から見ていても、不可欠な存在である事は分かる。
「これ、自分で巻いたんですか？」
「せやで。下手くそやろ」
笑っている場合じゃ無いんですけど、という言葉はしまってぺりぺりとよれたテープを剥がす。そして、そっと傷に氷嚢を当てた。
患部を冷やすのは出来る限り速いほうが良い。既に試合終了からは時間が経っているが、家に帰ってからするよりかは幾らかマシだろう。……先輩が帰ってから冷やすとは思えないのだけど。
暫く無言で氷嚢を当て、そろそろいいかと立ち上がる。そして棚から肌色のテープを取り出し、ソファに座ったままの彼の傍らに膝立ちをして腕を掴む。
「…テーピングくらい、自分でちゃんと巻けるようになって下さい」
すまんな、と口にした先輩は相変わらず憎めない笑みを浮かべている。
外は既に茜色で、狭い窓から差し込む夕陽が二人だけの部室を照らしていた。
「なあA、お前、好きな奴とかおるんか」
唐突に呟かれた言葉に思わず肩が揺れる。彼にとっては高校生らしいその場凌ぎの世間話かもしれないが、私にとっては深刻な話だ。
──特に貴方の前では。
動揺を悟られないように一度唇を結んでから、小さく息を吸う。
「……内緒、です」
「さよか」
自分から聞いたくせにさほど興味が無さそうな彼に、少しだけムッとする。先輩こそ、と口を開く前に彼は小さく息をついた。
「俺は、」
掴まれた手首から伝わる熱と、躊躇するように背けられた顔。
「…なんですか」
「…いや、なんもないわ。帰ろか」
私の掠れた声に、先輩はそう言って立ち上がる。テープはとっくに巻き終えていた。
熱をも孕んだ水縹の瞳に、自惚れるくらいは許されるだろうか。その日の帰り道、入部当初のように会話は無く、気まずい空気だけが肌を撫でた。
私はまだ遠い彼の背中を追う事しかできなかった。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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