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いつものように、帰り道を並んで歩く。もう慣れたものだと進む先を見やるが、どうしても隣の存在を意識してしまい、上手く視線が定まらない。
「…この前は、ありがとうございました」
静寂を嫌がって掠れた声に、彼は何の事とでも言いたげに少しだけ足を遅めた。体調悪かった時、と小さく言うと、何かを思い出したようにああ、と頷く。
「俺なんもしてないけどな…。まあもう良くなったならええわ」
結局あの後全快する事はなく、先輩達の勧めで渋々家へと帰った。選手達の方が余程きつい練習をしている筈なのに、と何度も自分を責めたが、とにかく回復させるのが先だと布団を被った。
あの時の事の記憶を辿っていると、鈍い光を放つ自販機の前で先輩が足を止め、自転車もガタンと止める。
「お前、よう頑張っとるしな」
ん、と短い言葉で差し出されたのは冷たい缶のオレンジジュース。財布を出そうと鞄を開けると、いらんいらんと手で制される。唐突に褒められて上がる口角を隠しながら、ありがとうございます、と恐る恐る口を付けると、爽やかな甘酸っぱさが喉に潤いを与えた。
「大会、もう明後日なんですね」
ふと口にした言葉に、先輩はせやなと自転車のロックを解除した。再びゆっくりと景色が流れ始め、夕風が肌を撫でた。
入部してから約一ヶ月。時が流れるのはあっという間で、充実していたと自信を持って言えると思う。それには、少なからず隣の仏頂面の先輩が影響している訳で。最初の見定めるような視線を思えば悔しいけれど、それは事実だ。
「絶対、勝ってくださいね…!」
別れ際、ジュースのお礼と共に言葉をぶつける。少し驚いた表情の彼に密かに笑みを浮かべると、当たり前やろ、と自信が滲み出た返事が返ってくる。
その言葉の通り、このチームは初戦を0-4というスコアで快勝。続く二回戦も緊張感の張り詰める中、余裕の勝利だった。
「よっしこの調子で次も行くぞ〜!」
赤髪の副部長さんがチームを盛り立てる。コネシマ先輩もやはり嬉しそうだ。
それでもやはり、左腕は最後まで気にしている様子で。しかし、誰にも言うなと言われてしまった最中声をかける事も出来ず、大丈夫かな、と自分の中で呟く事しかできなかった。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました(単純) (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - キャーknサンイケメーン((( 内容と作者様の書き方が好きです。!もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい!もうこれは全裸待機ですね!! (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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