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「雨止まへんなー……」
「……っ自転車置き場まで一緒に行くので、入っていって下さい」
そのまま外へ走り出そうとした先輩のエナメルの肩掛けの部分を慌てて引っ張って引き止める。うぇ、と苦しそうな声を出させてしまったが、背に腹は変えられない。私の傘はあまり大きくないが、無いよりは幾らかマシだろうと思った。
ばさりと桃色が雨粒を弾く。彼の方が背が高い分、いつもより上に右手で握る持ち手をあげなければならなかった。筋力の無さを露呈するように、少しの風で大きく傘が揺らぎ雫が目の前に落ちた。
「あ、すいません…！」
「……貸せ」
私の手から傘の持ち手を引ったくると、先程とは段違いに安定した傘の姿。それに、先程よりも左肩が濡れていない、気がした。雨粒が傘に打ち付ける音がやけに大きく響いて、話すことも忘れる。でも会話の無いこの状態が嫌な訳でもなく、ただ今迄で一番近い距離にいるのが気恥ずかしかった。
自転車置き場につくと、遠くの方の軒下で何人かが談笑している様子が見えた。もしかしたら数分後に雨が止む予報なのかもしれない。雨雲レーダーを確認しようとスマホを取り出したところで、雨音に混じった先輩の声がそれを制止した。
「試合、延期か」
「……仕方ないですね。でも、ちょっと嬉しいって思いましたよ」
かちゃんと自転車のロックが解除しながら、先輩は疑問符を頭に浮かべていた。理由を頭に思い浮かべながら、スマホをしまう。雨雲レーダーなんてどうでもいい。
「負けたら引退、ですよね。……先輩達に、まだ引退して欲しくないし」
嘘偽りのない心の声だ。負けるなどと一ミリも思ってはいなかったが、負けたら引退という事実はどの試合でも変わらない。一年の私は、まだ先輩達がいない部活の姿を思い浮かべることができていなかった。
ほおん、とどこか興味なさげにも思われた彼の返事に少しだけムッとして顔を顰める。
「……嫌ですよ。まだ先輩達と部活していたい」
「そうなんや」
「……ってニヤニヤするの、やめてください」
まあでも、と先輩の空色がどこか遠くを見つめる。下駄箱の方かもしれないし、職員入り口の方だったかもしれない。何を見ているのかは、私には分からなかった。
「……俺も、引退したくないわ」
ぽつり、紡がれた言葉はどこか物悲しく、私は返す言葉を失った。彼のサッカーに懸ける情熱は、私が思っている以上に大きいものなのかもしれない。
私は多分、この人の半分もまだ知らないのだろう。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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