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全身は手遅れなほどびしょ濡れで、少し風が吹くだけで寒さを感じる。髪の毛はシャワーを浴びた後のように雫が滴っているし、水分を含んだシャツは雑巾のように絞り出せる。
「……おまえ、ジャージは？」
「いつも部室に置きっぱです」
ちらりと空色が此方を向く。なんとなくその視線には違和感を持った。此方を見ているようで、見ていない。バツが悪そうに逸らされた視線だ。ジャージがあれば直ぐにでも着替えていたが、生憎部室に置いてきた。制服にジャージを羽織るのが私のマネージャースタイル。登下校の制服指定の規律があるため、出来る限り着替えの行程を減らした結果だ。
私の言葉にどこか考えるように小さく息を吐いた先輩は、唐突にエナメルカバンを開いた。そして取り出したのは雑に畳まれていた彼のジャージだった。
「着といて。湿っとるかもしれへんけど」
ぶっきらぼうに差し出されたそれに、思わず固まってしまう。……確かに、ありがたいけど、でもそれは。黙り込んで受け取る様子の無い私を見かねてか、彼はぐいとジャージを押し付けるように手を伸ばした。
「……目に毒やねん、色々」
「……色々？」
「色々。先輩が着ろ言うてんねん、はよう」
先輩にここまで言われると受け取らざるを得なかった。それでも腕を通すのはやめて、前のチャックを開けたまま羽織る。寒さが、薄れたような気がした。
「あの人は、どうしたんですか？」
「知らん。元々帰る方向ちゃうかったし、それに雨も降ってきたしな」
多少の方向の違いなら彼は回り道をしてでもついて行くと思っていたが、どうやらそれは違うらしい。
「意外？そこまでお人好しやないで」
いつの間にか口から溢れていた言葉に彼は小さく笑みをたたえながらそう答えた。
「じゃあ私を乗せてくれたのはなんですか、お金でも取られますか」
「いや取らへんけど。ずぶ濡れの後輩無視して前行けるほど心無いと思うか？」
「……正直、助かりました。ありがとうございます」
もっと早くに言うべきだったかな、なんて。勢いの弱まってきた雨を眺めながら、自らを省みる。霧雨のようになった眼前の風景は、無言の時間でも何故かしっくりと来て、このままもう少しだけいたいなと素直に思えるほど心地良かった。
＊
※公道での自転車の二人乗りは原則的に法律違反です。絶対に真似しないでください。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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