＊ ページ33
「……Aちゃんさ。まだ自分のことマフィアだと思ってないやろ。此処にいてええんかなって、思ってるやろ」
「そんな、」
「遠慮せんでええって。言うてみ？ほら。正直に」
ふふ、とこぼされた笑みはやけに楽しそうだ。此方が不思議に思ってしまうほどに。問いかけの答えに頭を悩ませる。ただの雑用係として雇えばいいものの、わざわざあの男がマフィアの一員にした意味が分からない。そして、もし仮にこんなぽっと出の私がマフィアだと言い張ってしまえば、他の彼らに何を思われるか不安で仕方がない。結局私は、いつまでも「お客様」気分でいるのだ。
「……心からマフィアの一員になったとは思ってないかもしれません。でもそれは、シャオロンさんたちも同じでしょう？こんな突然来た奴のこと」
「んー、どうやろなあ。少なくとも俺はそうは思ってないで？」
「……そう、ですか」
「うん。あのとき、ずっと隣いてくれたやん。俺のかっこ悪い代償見ても、幻滅せずに……。いや、してたかもしれへんけど」
「っそんな、してないです」
「ふふ、じょーだん。分かってるよ」
カウンターの奥の方から、美味しそうな匂いが漂ってくる。ベーコンの焼ける匂い。お腹が鳴りそうになっては、咳払いで誤魔化した。
「マフィアってさ、空間みたいなもんやと俺は思ってて」
「空間？」
「同じ空間にいるか、いないか。同じ場所で息をしてるかどうか。それがまず”仲間”の最初の基準になるんじゃないかなって。だから、……なんて言うんやろ。そんな背負わんでええって話！」
うん、と自分を納得させるように頷いた彼につられて、私も肯く。空間。同じ場所で息をしているかどうか。頭の中で反芻しては、すとんと心が収まるのを感じた。
「信頼とかはまだこれから積み重ねてけばええ話やし。それに、Aちゃんにもこっちを信頼するかしないか選ぶ権利があるやんか。……そんな虚を突かれたような顔しなくても。あるよ？あるに決まってるやん」
「……っわたしが？」
「うん。マフィア以前に、ひとりの人間やし」
じんわりと体の奥が熱くなる感覚がした。次第にそれは目頭の奥になって、いつしか勝手に視界が歪む。目の前のグラスも、丁度運ばれてきたサンドイッチも、輝くライムイエローも。輪郭が揺らめき、曖昧になる。込み上げたものを必死に押さえ込もうと唇を結ぶ。けれど優しい微笑みの前に、それはあまりにも呆気なく決壊してしまった。
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あん(プロフ) - Alexさん» コメントありがとうございます。引き続き楽しんでいただけたらと思います。 (2020年6月29日 9時) (
レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
Alex(プロフ) - とても面白かったです！！更新引き続きお待ちしております！ (2020年6月28日 17時) (レス) id: 68d9b196e6 (このIDを非表示/違反報告)
あん(プロフ) - かわっちかわっちさん» コメントありがとうございます。今後も引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。 (2020年6月26日 6時) (レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
かわっちかわっち(プロフ) - 初コメ失礼します！お気に入りさせていただきました。投稿無理せず頑張って下さい！ (2020年6月24日 20時) (レス) id: d677453767 (このIDを非表示/違反報告)
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