shopping ページ31
コネシマさんの意味深な微笑みに言葉を返す間もなく、彼は共用キッチンを出て行ってしまった。つむじ風のような人。そんな印象を抱きつつ、足を踏み入れるのにも慣れてきたキッチンで、お昼ご飯の準備をする。今日は何を食べようか、生憎、空腹の具合は微妙だった。
長年にもわたり積み重なった、満足に食を得られない路地裏での生活は、どうやら私の身体に異常をもたらしていたようだ。ロボロさんが言うには、「何でもいいから三食食べろ」ということらしい。
そうはいっても、空腹に慣れてしまっている体では、特に食べたいものも思い浮かばない。そもそも、料理のレパートリーもよく知らないのだ。
ぐるぐると思考を巡らせていると、また新たな来客があった。彼は私をその鮮やかなイエローに映す。そして、あっと声を漏らしたかと思えば、彼の掌は私の手首を攫っていた。あまりにも滑らかな動きに、動き出すのが遅かった。バランスを崩した私を見て、キッチンから連れ出そうとしている張本人──シャオロンさんは、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
「飯まだやろ？一緒に行こうや」
「……っいや、あのー……」
「ついでにグルッペンが言ってたで。買い物行ってエルガストルムに慣れてこいって。俺が案内したるからさ」
「私、お金無いですよ、まだ」
「ああ、それなら俺が預かってんで。ほら、財布とか服とか、必要なもんいっぱいあるやろ？」
「それはそうですけど……」
「遠慮すんなって。この前のお礼もしたいし」
彼の勢いに巻かれ、敷地の外へと足を踏み出した。
穏やかな風がふわりと肌を撫でる。外気よりも少しだけ冷たいそれは、怒涛の日々を送っていた心を包み込んでくれるような心地よさを感じた。
風とは、こんなにも優しいものだっただろうか。冷たくて、肌を刺すものとしか思っていなかった。否、思えなかったのだ。路地裏に吹く風は、濁っていて、錆びた鉄の臭いを運ぶだけだった。時折血の匂いと哀れみの言葉を届ける、そんなもの。
「ほら、デートしに行くで！」
太陽が眩しくて、思わず目を細めてしまった。
此処に来て良かったのかもしれない。此処にいても良いのかもしれない。ほんの、一抹。僅かにもにそう思えたのは、あまりにも穏やか過ぎるこの昼下がりの気温のせいだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 596人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あん(プロフ) - Alexさん» コメントありがとうございます。引き続き楽しんでいただけたらと思います。 (2020年6月29日 9時) (
レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
Alex(プロフ) - とても面白かったです！！更新引き続きお待ちしております！ (2020年6月28日 17時) (レス) id: 68d9b196e6 (このIDを非表示/違反報告)
あん(プロフ) - かわっちかわっちさん» コメントありがとうございます。今後も引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。 (2020年6月26日 6時) (レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
かわっちかわっち(プロフ) - 初コメ失礼します！お気に入りさせていただきました。投稿無理せず頑張って下さい！ (2020年6月24日 20時) (レス) id: d677453767 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
