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side.you
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『帰ってほしい?』
予想してなかった返事に戸惑ってしまう。
今さっき会ったばかりの名前も知らない人。
そんな人とずっと話してること自体が不思議で、はたまた帰ってほしいか問われるなんて、今までに無いことだ。
『ごめんごめん、俺が帰りたくないだけ』
持っていた傘を開き、屋根から出る。
あ、帰るんだな。そう思って何となくお礼を言う。
知らない人とはいえ、ずっと雨宿りしていた私の事を気にしてくれて話してくれたんだろう。
こちらに気付いては通り過ぎてしまう人達をみてしまったから余計に彼の優しさが胸に染みる。
「ありがとうございました、楽しかったです。お気をつけて」
『何言ってんの、一緒に帰るんだよ』
そう言うと私の手首を掴み、ぐぃっと引っ張る。気付けば彼の胸に飛び込んでいた。
突然の行動に驚いて彼の顔を見上げると、目と目が合い、恥ずかしさで反射的に逸らしてしまう。
『生憎、傘一本しかないんだよね』
サッと私の荷物を持ち、方面どこ?と聞いてくる。流石に送ってもらうのは悪いし、そもそも名前も何も知らない相手だ。
「い、いいですよ!走って帰りますから」
『よくないでしょ、雨宿りしてた人がなーに言ってんの』
図星だった。今俺と行かないと帰れないよ?と言う彼。既に傘に入れてもらってるので素直に近くまで送ってもらおうと決めた。
『名前は?』
「Aです」
『へー可愛いじゃん』
言われ慣れていない彼の言葉を、この雨音でも聞き逃さなかった。
先程まで肌寒かったはずが、一瞬にしてなくなった。
…私、このままだと、好きになっちゃう
あぁ、この感覚は何時ぶりだろうか。この胸の高まり、匂いに声に仕草にも反応してしまう。
…彼はどうして私なんかを。放っておいてくれていいのに。
『…大雨の中、こんな可愛い人放っておけないよね』
私の心の声が聞こえたのか、と思った。
すると、こちらをチラッとみて続ける。
『そんな身体濡れちゃってさ。コーヒーでも飲む?』
それがどういう事かわかっていた。
…まだ一緒にいたい。
1度甘えてしまえば、自分の気持ちに素直になってくる。
こくん、と首を縦に振れば、満足そうに笑みを浮かべる。
『じゃあ帰ろっか、Aちゃん』
そんな甘い声と共に、私の帰るべき方向と違う道を歩き始めた。
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古舘(プロフ) - 蛍さん» 読んでいただき有難うございます、感想も頂けて嬉しいです*。 (2022年9月13日 22時) (レス) id: 2c80c0e490 (このIDを非表示/違反報告)
蛍(プロフ) - レトさ?のお話辛いもの9割でツラツラなんですが、話の作りや文章の工夫がすごくて読む手が止まりません!ありがとうございますm(_ _)m (2022年5月30日 19時) (レス) @page42 id: 4b8bfd7105 (このIDを非表示/違反報告)
古舘(プロフ) - とまとさん» 主人公の「」とレトルトの『。』の中を、PCであれば左クリックしながらなぞって頂くか、スマホであれば長押しして「」の中を検索にかけて頂くと…*°お手数お掛けしますが、こちらをお試し下さい! (2021年8月14日 15時) (レス) id: 6d4dc67ed0 (このIDを非表示/違反報告)
とまと - すいません最後のレトくんのお話の『。』の意味がわからないんですけどどういうことですか? (2021年8月14日 15時) (レス) id: 6d36e78e24 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:古舘 | 作成日時:2021年7月6日 1時