私の彼の事② (ページ23)

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特技ページ23

「濱くん先お風呂入っとけば？」

「大丈夫。観終わってからにする」

「絶対寝るやん」

「絶対寝ぇへん」

「ほんまに？」

「うん」

最近の彼は疲れも相まってか凄くよく寝る。
このタイミングで？
っていうタイミングで寝たりする。

だからこそ助言したのに、
既にフラグが立ってるけどそれはもう置いておこう。

何せこの時間帯にリアルタイムで彼の好きな映画を一緒に観れるなんてこの上ない幸せだから。

「私コレ観たことないねん」

「え？！嘘やん」

「ほんと」

「えぇ…、ありえへん。こんな名作」

「濱くんこの映画めっちゃ好きって言ってるけどさ、どんな所が好きなん？」

「名作で面白い所」

もう既に眠たいのだろう。
全くもって語彙力が皆無。

「てか観たら分かるから」

それはそうだ。

そして映画が始まってしばらく、
チラッと横目で彼を見ると、
しっかりと映画の世界に入っていて、
テレビを凝視していた。

「濱くんはタイムスリップ出来るとしたらいつの時代に戻りたい？」

「……んー、別に戻らんでええかも」

「え、そうなんや。以外」

「そう？もし戻ってもAに会える保証ないやん」

「え？」

「は？」

「ｯﾌﾌ、"は？"って何っ、」

「何が？」

「何が？」

「なんやねん」

「なんやねん」

「はいもう終わり。始まったで」

CM中にそんなしょうもないやり取りをしていた。
何と素敵な時間でしょうか。

「私も戻らんでいいかな。今が1番幸せやから」

ボソッと、
でも彼には聞こえる位の声量でそう言って、
また彼の方に視線を向けた。

ほんとに嘘かと思うけど、
さっきまで会話してたのに、
完全に舟を漕いでいた。

相変わらず凄いタイミング。
そして凄い恥ずかしい。

「……あかん、眠い」

思い切りカクンと首が落ちた瞬間に、
その衝撃で目覚める彼。
私の言葉は聞こえてなかったみたいに普通で、
やっぱり凄い恥ずかしい。

「濱くん、」

「あかーん…、瞼勝手に落ちてくる、」

私のこの甘酸っぱい気持ちはいずこへ。

"そんなん知らん"とばかりに、
スイッチが入ったみたいに盛大に舟を漕ぎまくる彼。

最終的にボスンと私の膝の上に落ちてきた。

「……ごめんA、ちょっと寝る…、」

その言葉を最後に、
彼は夢の世界へと旅立った。

そして私はこの体勢から動けなくなり、
結局一人で最後まで映画を観る事になった。

彼が目覚めるのは丁度映画が終わる頃。