まっしろな夜を君にあげる。～Kei.Ｉ～ (ページ8)

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どうしたらいいのか、分からなかった。

元々借りていたワンルームの部屋を手放して優吾との同棲の資金に充てていたから、
嫌になったと言って飛び出して住む家もお金もない。

あの日からとにかく家に帰りたくなくて

大好きだったはずの彼と、目を合わすこともままならなくなった。

彼のバイトが休みの日はこうして外で時間をつぶしたり

逆に帰りが遅い時は帰ってくる時間に寝たフリを決め込んだりしている。

……何やってんだろう、私。

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慧「待って……！」

慧さんはあの後、慌ただしく店のドアを開けて飛び出し、私を追いかけてきてくれた。

A「えっ…？」

目を丸くする私の前で浅く息を整えて

慧「あのさ……っ！来ていいから」

A「ん？」

慧「居場所がなくてどうしようもない時、いつでも来ていいから。

あ、そうだ。店が開いてない時はね、ここに！この鉢植えの下に鍵入れとくから」

A「いや、それはあまりに無防備すぎません…？」

慧「だいじょーぶ、金目のモン置いてねえし。番猫いるし」

番犬ならぬ、番猫……

A「ふっ、」

少し笑ってしまった私に安堵するように肩の力を抜いた慧さん

A「ありがとうございます」

．

A「でも……ご心配には及びませんよ。大丈夫ですから」

いくら何でも、言葉通りに甘えて昼間のこのスペースを使わせてもらう気になんてなれない。
あまりに有難い話ではあったけれど、丁寧にお断りしてその場を離れようとした。

慧「じゃあさ！また来てよ」

A「……また、？」

慧「そ、また。今度さ、桃のケーキ焼くから。好きっしょ？」

A「、好きですけど」

慧「やった。絶対だよ。あとスタッフも募集してる」

A「あははっ、どんだけ人手不足ですか」

慧「深刻なんだよ？」

そう言って笑ってくれた慧さん

私はどうにも、夢の中にいるような気持ちだった。

どうして私にあそこまで親切にしてくれるんだろう？
私、よっぽど顔に出てた……？

嬉しい反面、少し腑に落ちない感情を抱えたまま、ゆっくりと家路についた。