【歌い手】○○な恋【短編】 (ページ8)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:27,906 hit

【りぶ】失った分を生きるrion ページ8

＿＿＿「もう歌わないで」

君からはなたれたその言葉
消えそうなくらい小さな声でも
安易に私の耳には届いた

『うん……歌わないよ』

「……ごめん」

『……が謝る必要ないよ』

無理やりの笑顔じゃないはず
まわりからはどう見えたって
無理やりなんて笑っていない

「……ごめん、A……」＿＿＿＿

一昨年の今日まで、私は歌い手として活動していた。その頃の日々は驚くほど充実したもので、多くの人が応援の声を届けてくれた

でも、やはり永遠に、なんて夢は無い

こんなことを言うのはベタで、ドラマっぽすぎるのかもしれない

でも、私はもう人の前では歌わない。歌っちゃいけないというべきか

私は小さいころからずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みが二人いた。二人共明るくて、しょっちゅう喧嘩だってやってたけど、時間と共に魔法のように普段通りの仲良しになっていた

でも……それでも……

『今はもう、………一人』

私の歌なんてなければ…二人は、ここに、居たのかな……？
二人は…生きていたのかな……？＿＿

最後は泣きながらも、そう僕に全てを話してくれた彼女

「Aのせいじゃない。……一人で抱え込みすぎだよ？それにさ、Aには僕がいるし、天月くんたちだって」

Aの今の顔が僕の一番嫌いなAの表情。だからそんな顔も見られなくて、抱きしめながら、呟いてた

その後、Aが口にする予想もしなかった言葉に驚かされる自分も知らないで

『……りぶさんだって、抱え込んでるよね？』

「………え？」

『…こんなこといってごめん。……でも天月くんから聞いたよ？……りぶさんの話……話して…くれる？』

その後の僕は10分くらいまえのAと入れ替わったように、自分の過去の話をした

両親を産まれてすぐ亡くしていること。そして、その原因は、自らその道を二人が選んでいったということ

全て話し終わった後のAは、悲劇のヒロインのような悲しみに浸ることもなく、慰めるような笑顔で黙って僕の背中をさすりながら微笑んでくれた

それに僕は安心したのか、続くように微笑み返す

「聞いてくれてありがとう」

＿＿＿その後二人は身を寄せあうようにして、目の前の光を失った

もちろん永久の眠りなんかじゃない。二人はこれからも充実した日々を歩んで行く

そして、今りぶさんと私は、それぞれ一人の歌い手としても、活動している＿＿＿

((next:anmitu))