第70話* ページ41
この1ヶ月集中して新曲を作り上げたAは、静かにヘッドホンを外した。
何度かお蔵入りにしてきた楽曲たちを合わせて編曲し、一曲にしてみた。
曲調も歌詞も申し分なく特に問題は見付からない。
が、自分ではあまり気に入ることが出来なくて、その曲は書き出されることもなくソフトと一緒に閉じられた。
椅子に凭れて思わず小さく吐かれた溜め息にも気付かず、また新たに書き出す次の曲のコードを考える。
言われるまでもなく、Aは焦っていた。
夏から始まるあらきの全国ツアー。それに加え大きめの会場での小規模な記念ツアーも決まっており、友人のライブにもゲストとして呼ばれていたりと予定は完全に埋まっていて、リハーサルや打ち合わせで常に家に居ないあらき。
次いでnqrseは今年に入って調子が良いと自負している通り、多方面からの作曲依頼や作詞依頼、自身の新曲や新グッズ、友人を中心にライブ制作の手伝いなど、程々に予定は埋まっており、最近は自枠やゲームもする暇がない程。
そしてそんな2人より忙しそうなのはめいちゃんで、兎に角彼は活動規模が大きくなり、新曲を出しても必ずランキング上位を獲得し、アルバム制作の為にライブツアーと並行して作業を行っている。
一緒に過ごす時間はあれど、頻繁に顔を会わせることが減った3人と、何の予定もない自分が会うのは気が引ける。
せめて、新たに曲でも作らないと気が気ではない。
何か気を紛らわせたり出来ないかと、3人のフォローも兼ねて家事全般は自分が担い、アーティストとしても3人について行かねばと毎日曲を書いては消しを繰り返す。
自分にはこれだけ時間があるのに何故出来ない。
あの3人の背中を見ている筈なのに何故追い付けない。
そんな焦りだけが募っていくが、それをどうこうするでもなく、胸の奥に貯め続けて自分に拍車をかける。
頑張らなきゃ。
まだまだ全然、足りない。
作らなきゃ。歌い続けなきゃ。
追い付けない。
置いていかれる。
3人から。
リスナーから。
世間から。
レコーディング室から聞こえる微かなあらきの歌声と、nqrseの部屋から聞こえる提供曲のメロディと、めいちゃんの部屋から聞こえるギターを弾く音。
ぷつん、と何かが切れたようにそれらの音が聞こえなくなって、地に足がつかない感覚がした。
自分の中で張っていた一本の線が切れたように、思考も一緒に停止して、何も成し遂げられない自分はこの場所には居られないとぼんやり思うと、フラフラと足が動いた。
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憐(プロフ) - ち ひ ろさん» コメントありがとうございます！順次更新しますのでお待ちください！ (8月3日 12時) (
レス) id: 1d38a41f1c (このIDを非表示/違反報告)
ち ひ ろ(プロフ) - 以前はリクエストの素敵なお話ありがとうございました！再びリクエストなのですが、暑い日が続いているので4人で海やプールに行くお話が読んでみたいです。 (8月2日 12時) (レス) id: d14445efc4 (このIDを非表示/違反報告)
りく(プロフ) - 素敵なお話ありがとうございます。とても助かりました；；今後のお話も楽しみにしております (7月5日 19時) (レス) @page46 id: 4c715eefda (このIDを非表示/違反報告)
RRR(プロフ) - 素敵な作品ありがとうございました！お体に気をつけて頑張ってください。 (7月2日 11時) (レス) @page44 id: 9a70e09dc0 (このIDを非表示/違反報告)
憐(プロフ) - りくさん» ありがとうございます！順次更新していくのでお待ちください！ (6月27日 21時) (レス) id: 1d38a41f1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：憐
| 作成日時：2022年9月9日 23時
