第61話 ページ29
2月14日。世はバレンタイン。朝から同居人達は揃って仕事で出ているので、絶好のチャンスだとレシピと睨み合いながらキッチンに立っていたA。
少し凝った焼き菓子を提供したいとワクワクしながら初めてお菓子作りに挑戦したが、料理よりも少々難しかったのか失敗に終わってしまった。
だが何も用意しないのは恐らく期待してくれている3人に悪いので、取り急ぎチョコレートを購入した。
作った方はタッパーか何かに入れればバレはしないだろう、なんて思っていた自分が浅はかだった。
「これなに」
『…えっ、』
「これ」
後でこっそり食べようと隠しておいたお菓子があっさりnqrseに見付かりギクリとしたが、顔色は変えずにやり過ごす。
『練習です。興味があったので』
「おれらにじゃなくて？」
『3人の分はこっちに…』
「これじゃだめ？」
『だめです』
この男のお菓子愛は見かけによらず凄いものだと学習した。
本当に食べてくれそうな勢いではあるが、完璧なもの以外は与えたくないAはそれを取り上げて購入したチョコレートを押し付けるように渡す。
リビングの方で「美味い美味い」とチョコを食べる2人を無視して、nqrseは不機嫌気味にAのお菓子を取り返した。
そして、阻止されるより早くそれを口に入れもぐもぐと味わう。
『あぁー！』
「もうなるせが食べたもんね。おまえのはない」
『だめだったのに！なるせのバカ！』
「知らねぇやつにあげるお菓子なんて作んなくていいの」
『誰もあげるって言ってない！』
喧嘩を始める2人にあらきとめいちゃんが仲裁に入り、少し泣きそうになりながら怒るAに、nqrseも本当に悪いことをしてしまったのかと焦り始める。
『みんなに作ったのに失敗しちゃったからだめだったのに…！』
「え？」
「捨ててやる」とゴミ箱へ投げ捨てようとするAを抑えて、あらきとめいちゃんもそれを口にすると、Aは益々涙目になった。
「俺こっちのがいいや」
「ちょっと焦げてるけどまたそこが美味いねー」
「おいなるせが先に見付けたのに食べんな」
Aを置いてワイワイと失敗したお菓子を食べる3人に困惑するが、ペロッと完食してしまった。
「来年からバレンタインは作ったやつしか食べないから」
「俺もそうしよーっと」
「ホワイトデー何すっかなぁ」
満足そうに各々部屋に戻っていく背中を見ながら、色んな感情で顔が熱くて仕方ないが来年の為にお菓子作りも練習しようと決めたAだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 726人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
憐(プロフ) - ち ひ ろさん» コメントありがとうございます！順次更新しますのでお待ちください！ (8月3日 12時) (
レス) id: 1d38a41f1c (このIDを非表示/違反報告)
ち ひ ろ(プロフ) - 以前はリクエストの素敵なお話ありがとうございました！再びリクエストなのですが、暑い日が続いているので4人で海やプールに行くお話が読んでみたいです。 (8月2日 12時) (レス) id: d14445efc4 (このIDを非表示/違反報告)
りく(プロフ) - 素敵なお話ありがとうございます。とても助かりました；；今後のお話も楽しみにしております (7月5日 19時) (レス) @page46 id: 4c715eefda (このIDを非表示/違反報告)
RRR(プロフ) - 素敵な作品ありがとうございました！お体に気をつけて頑張ってください。 (7月2日 11時) (レス) @page44 id: 9a70e09dc0 (このIDを非表示/違反報告)
憐(プロフ) - りくさん» ありがとうございます！順次更新していくのでお待ちください！ (6月27日 21時) (レス) id: 1d38a41f1c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：憐
| 作成日時：2022年9月9日 23時
