124話 むかしむかしの彼女の記憶 ページ9
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「九尾!おれと結婚してくれーーっ!!」
部屋の窓を蹴破り、太陽に照らされて、きらきらと輝く綺麗な黄色の髪が飛び込んできた。
おひさまを吸ったみたいに眩しくて、思わずぱちくりと目を瞬く。
そしてーー考える暇もなく、彼は私の手を取り、にっこりと笑って求婚した。
私の記憶が正しければ、この人と私は今日で初対面のはず。
沢山の人が求婚して来たけど、流石にここまでインパクトのある人を忘れるわけがない。窓を破って転がりこんできた人も初めてだ。
「……あの、あなたは……」
「ん?おれ?おれは稲荷神だ!お前のことが大好きなかみさまなんだぜ!」
「稲荷神……」
……名前なら聞いたことがある。
確か、長年山奥で修行していたけれど、最近久しぶりに山を降りて来たとか……。
「おれ、お前の変な顔見てさ。……母さんと重なった。おれの母さんは優しくて、すごく優しくて。でもその優しさから自分を責めて、そして壊れた」
「……あなたの、お母さんと……私が?」
……私はただ、家に、部屋に、この狭い世界の中に閉じこもってるだけ。外が怖くなったから。私を見るすべての目が怖くなったから。
男の人は目の色を変えて求婚してくるし、その甘ったるい視線がどうにも私は苦手だった。
女の人たちの嫉妬の刺々しい視線が背中にグサグサ刺さってきて、とうとう私は、世界を諦めてしまったんだ。
それだけだから、……本当にそれだけなの。優しいんじゃないの。弱いだけなの。
「なあ九尾、おれと一緒に来てみないか?」
「……え?」
「外の世界には楽しいものがいっぱいあるんだ、きっとお前は気に入るよ!ほら、行こうっ!」
差し出された小さな手。私と同じか、それより小さいか。
……こんな手に、私は全てを託していいの……?そんなのまず間違いなく、この子にとっては……。
「……だめだよ」
「……どうしてだ?」
「だ、だって、私……私はこんな性格、だし……皆、私のことなんて見てくれないから……!見てくれたとしても『醜い』『怖い』って、そればっかり……!きらきらしてるあなたに手を引かれていたとしても無理なのっ!!お願い、帰って……!!」
「…………そうか」
……うん。
いいんだよ、これで。
私が外に出たら、きっと私のせいで傷つく人がいる。みんなそんな「目」で私を見るから。同じ目線で話してくれる人なんていないから。
125話 きみの笑顔が好きだから→←123話 注意!今回のお話はちょっと短いぞ!
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リア - はじめまして。更新復活して嬉しいです! (2021年3月31日 22時) (レス) id: 5b8d6aacc8 (このIDを非表示/違反報告)
みず(プロフ) - 猫丸。さん» 果たして勝つのはどっちだ!?次回、猫又ちゃん死す!デュエルスタンバイ! (2020年3月25日 15時) (レス) id: 0b6159a6d2 (このIDを非表示/違反報告)
猫丸。 - あっ、おいなり三兄妹が!!!!戻ってこーい!!!(無理です)叩いて被ってじゃんけんポン、私は物凄く弱いんだぜ、舐めるなよ(某タンポポ) (2020年3月25日 8時) (レス) id: 144e3b7d1c (このIDを非表示/違反報告)
みず(プロフ) - 猫丸。さん» 仙狸くんはめちゃくちゃシスコンです!!!!!! (2020年3月22日 15時) (レス) id: 0b6159a6d2 (このIDを非表示/違反報告)
猫丸。 - えっ、まさかのシスコン?シスコンですか??私そういうの大好きなんだよね、だいすき(?)実際猫又ちゃんもブラコンだったり………… (2020年3月22日 14時) (レス) id: 144e3b7d1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みず | 作成日時:2020年3月13日 18時