□後の通過儀礼【番外】 ページ48
・
此処に来てから理不尽な物事に巻き込まれることなんてしょっちゅうである。
この国へ来た事に始まり、総統の一声で謎のお勤めが課された事など良い例だ。しかし、
「んまいなぁ、お姫サンもう食わへんの？」
『は、はい……もう十分に頂きましたので』
だから慣れたなんて言ってない。
現在地は櫻鏡園の応接間の一室、目の前には大量の食事と自称“鼠”さん。普段であれば私はホールで食事を取っていた筈だった。
「美味いわ。これ何の魚なんやろ……」
『其方はシラカワではありませんか？』
もぐもぐとしていた大きな口が、ピタリと止まる。
昼食時に天井からやって来た彼は一言「一緒に飯食おうや」と言った。
彼曰く、今日は皆仕事が詰まっていて食事の時間が別々になるそうで。それを寂しく感じたゾム様は急遽園の使用人達に根回しして、他のご令嬢方に知られる事なくこの応接室で2人食事を取ることにしたそうだ。
「やっぱ、魚とか海の事は詳しいん？」
『そうですね。他の物に比べれば多少…』
「肉食う方が多いけど、魚もむっちゃ美味いよなあ」
確かに園の食事は申し分ない美味しさである。
だが、不法侵入だったり疑われたりしてた方と面と向かって食事をするなど気が気じゃない。正直、半分くらい味が分からなかった。
「お姫サン食わなすぎやで。ほら、それとか食べや」
『い、いえ。ですからもう十分…』
「はい、これやるわ」
フォークを手に取った時からずっと食え食えと勧められてはいたが、いよいよ強硬手段に出られた。
確かにバジルソースの添えられたカルパッチョは魅力的な見た目だ。しかし、コルセットを着用しているため腹にはもう何も入りそうにない。ゾム様の食事姿を見ているだけでもお腹が膨れそうだ。
「何や、本当にもう限界なん？？少食過ぎひん？」
『その、普段からコルセットをしているので……』
料理の乗った皿と睨めっこしていると、ゾム様は割と心配そうな声色で尋ねた。素直に事情を伝えると漸く合点がいったらしくポンと手を一つ打った。
「そら、そんな窮屈な服着とったら量食われへんか」
『折角の勧めを断る形となってしまい…』
「あー、ええよ。けど、次回はそれ無しで食おうな」
とんとん、と自身の腹部を指で叩いて告げるゾム様。
コルセットをしないのは勤めの時だけだし、なんなら次回があるのは決まってるのか。
これが世に言う“食害”未遂であった事をまだ知らぬ私は新鮮なランチタイムを過ごしたのだった。
ラッキーゲーム
hoi
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2163人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (2023年4月30日 18時) (
レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ！ (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます！続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます！続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます！初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あん肝ポン酢丸 | 作成日時：2019年8月4日 8時
