▽思い出あまって ページ32
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「お言葉に甘えて」と優しい微笑んだ彼はどこまでも紳士的であった。突然部屋凸してきた誰かさんとはえらい違いだ。
書庫の整理とは言っても、書庫に入るのは殆ど幹部の人間のみであるためザッと本の在書を確認したら新書の為のスペースを作るのだと説明された。
「ご令嬢はコッチ。オレの区分手伝ってください」
「わからない事が有れば何でも聞いて下さいね」
『ありがとうございますエーミール様』
「いっ、いえ！……では宜しくお願いします」
少し口籠った彼に空色の彼は小さく「童貞はこれだから」と呟いた。
聞かせる気があったのかは知らないが思い切り聞こえている、うら若い女の前で何て事言うんだ。
「さっ、始めるか。ご令嬢は本棚の下半分のチェックを頼みますわ」
『承知致しました』
微妙に緩い敬語に素直返事をする。流石に十進法は存在していない世の中だが、一応書籍はジャンル毎に分かれているようだった。
割り当てられたのは古典系の本棚で、時折知ってる国の名前が出てくるのが嬉しかった。
『あっ……』
最下段に収められた一冊の本に、思わず動かしていた手が止まった。古びた羊革の表紙に刻まれた《日本》の文字。
一冊の本は確かに遠い祖国が存在した事を証明しているようで、不覚にも呼吸が出来なくなりそうなった。
前世の記憶を疑った事はなかったが、こうして客観的に見るとやはりクるものがある。
「ちょっとご令嬢〜？手ェ止まって……何、どしたん？」
『い、いえ……っ！なんでもありませ』
「なくないでしょうよ。何て顔してんすか」
声を出すのに喉がジンとして少し痛い。
手の止まったのを不審に思ったのだろう彼は、私の顔を覗き込んでギョッとした。
『どんな』
「ん？」
『私、今どんな顔してますか…？』
突然の問いにチーノ様は少し眉根を寄せたが、やがて唸るような声で答えた。
「なんか、泣き笑いしたような顔になっとりますよ」
『そうですか』
しっかりしてる(精神年齢的に)年下の彼に、情緒不安定な自身を不甲斐なく感じ内心呆れ返っていた。
『埃を吸ってしまいまして』なんて白々しい嘘を吐く私に、当然納得してはもらえてないだろう。
「ほんまに、ようわからんご令嬢やわ」
『すみませ、ん…？』
ペコと頭を下げると、ふと頭に温かな重みが加わる。ちらと視線を上げると私の頭の上にはチーノ様の手が乗せられていた。
細く骨張った手が不器用気に頭を撫でてくれるのを、私は年甲斐も無く甘受していた。
ラッキーゲーム
hoi
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山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (2023年4月30日 18時) (
レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ！ (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます！続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます！続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます！初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あん肝ポン酢丸 | 作成日時：2019年8月4日 8時
