▼お暇の理由は ページ29
・
「A嬢、次のお仕事お休みになるわ」
『お休み、ですか？』
給仕室へ向かう途中で出会ったオスマン様に挨拶もそこそこに告げられた言葉。
確かに最近の総統は拍車をかけて多忙な様子だった。あの調子だと休憩時間など設けている暇はないのかもしれない。
「そうめう。ちょっと色々あるから」
『総統閣下もお仕事お忙しそうですものね』
「あれ、名前で呼ぶ約束してたんとちゃうの？」
『ご本人様を呼ぶ時だけです』
『不敬ですから』と言う私に彼はちょっと困り眉になって微笑んだ。
オスマン様は偶によくわからない語尾をつけるようになったが、単に私の前でも使うようになっただけなのだろう。
「もうすぐ本格的に雪の季節が来てまうからなあ」
『そうですね』
「その前に片付けたいねん」とボヤく、その言葉の意図をなんとなくは理解していた。
近頃、我々国は北に面するある国との国交が芳しくないらしい。とどのつまり戦争寸前なのだ。
軍事的に考えて、恐らく我々国の一方的な侵略で終わると予想していた。
「A、今日の茶菓子は何だ？」
『本日の紅茶はミルクティー、茶菓子はガレットでございます』
慣れた手付きで用意を済ませると、総統は頬を緩ませていつものソファに腰掛けた。
ミルク特有の甘い香りが部屋中を包み込む。
「オスマンから話は聞いたか？」
『はい、3日後のお勤めにお暇を頂けると』
グルッペン様は「不本意だがな」と口を尖らせて返した。その仕草がやっぱり小さなこどもの様で、私は小さく笑いを零す。
「お前なら気づいていると思うが、近日中に我々は侵略行動を開始する」
『ええ、そのようでございますね』
「積雪で道が閉鎖していまう前に必ず白旗を上げさせてみせるゾ！」
意気揚々といった様子の大魔王に、ただ今まさに戦いの準備を進めているであろう北の国を憐れに思うばかりだ。尤も明日は我が身の話であるが。
これでもかと濃く淹れられたはずのミルクティーは、不思議と味を感じなかった。
『食器、片しますね』
「頼む」
開戦目前で気が高揚しているのか、やけに興奮した彼の相手をするのは骨が折れた。
本当に戦争が好きなんだな。彼と価値観が合致することは一生ありえないだろう。
『それでは御前を失礼いたします』
「ああ、ご苦労だったな」
『グルッペン様、きちんと休息はお取りになって下さいね』
頑張って、無理しないで、そんな言葉なんて多忙期の人間には通用しないものだと知っているから。
ラッキーゲーム
hoi
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2163人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (2023年4月30日 18時) (
レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ！ (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます！続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます！続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます！初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あん肝ポン酢丸 | 作成日時：2019年8月4日 8時
