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「私ね、妹を殺したの」
ダフネはどこか遠くを見つめながら、呟くように行った。それは今までないくらいに小さくて、か細くて、いつもしっかりしている彼女だけれど、まだ子供であるってことを思い出さされた。
「何度も、何度も、何度も、なんども、なんども、なんども、なんどもなんどもなんどもなんども、何度も」
狂ったように呟いて、そして彼女は、ふにゃりと微笑んだ。それがどうにも恐ろしくて、僕はダフネから目を逸らしたくなる。だけれど何かを伝えようとする彼女から、目をそらすことなどできないで、その目をじっと見つめていた。
「心の中で、だけど」
足元にある石を転がしながら、彼女は続ける。
「きっと大丈夫だと思ってたの」
ダフネの意図が全く読めなかった。兄弟がいない僕にはそれが通常であるのか、異常であるのか、さっぱり理解ができない。僕はなんと声をかければいいのか、わからなかった。
「心の中でだけだから、きっと妹を殺したいほど嫌うはずがないって、そう信じてたの。きっと心のどこかでは、彼女のことを愛してるんだって。でも、」
言葉を切る。彼女はいじっていた石を遠くに放り投げた。
「前に妹を失いかけたわ。妹が川に落ちて、流れが早くて、足がつかなくて、彼女の体は川に沈んでいくのを見てね、私なんて思ったと思う」
問うような口調で、だけれど疑問符などつけないで、彼女は言う。それが、お前なんかにはわからないと、そう言われている気がした。
「嬉しいって思ったの。やっと、やっと私は妹から解放されるって。父様も母様も私を見てくれるって。愛してもらえるって。嬉しいって思った。そのまま死んでくれたらいいのにって」
手に取るように想像ができた。小さな小さな体が、小さな波に飲まれて、沈んでいく。「助けてっ!」っと妹は叫ぶ。だけれど、姉はそれを、ジッと、ただジッと見つめているだけ。そう、ダフネのあの、ポガートのように。
あれはダフネ自身だったのかと、初めて理解することができた。
「結局、助けたのだけれど。妹が死んだら両親が悲しむって思い直して、必死の思いで助けたの。妹は溺れたけれど、水を飲みすぎて意識が朦朧としていただけで、障害なんて残らなかったのに。でも、両親は私に言ったの。「なんでもっと先に助けなかったのか」「姉として、どうして命を張らなかったのかって。私は、好きで「姉」になんてなった覚えないのに」
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作者名:あんころころもち x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月13日 9時