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僕は彼女から目をそらして、そして、呟いた。
「セオドールの言ったことが、本当にわからないんだ」
ダフネが先を促すように、僕を見つめる。
「親がいれば、たとえ今仲が悪くとも、どれだけ憎み合っていようとも、まだ仲直りできる可能性がある。親がいれば楽しい出来事があるかもしれない。親がいれば、悲しいこともあるかもしれない。でも、良かれ悪かれ、「思い出」を作ることができるんだ」
チクタクと、静かな音がする。ちらりと彼女を見てみれば、ダフネは、いつの間にかその視線を下にずらしていた。
「だけどいなかったら、喧嘩をすることもできない。もちろん仲直りもできないし、楽しい思い出もできるわけはなう。もう、愛してもらうこともできないし、手紙を貰うこともできない。声をかけてもらうことも、抱きしめてもらうことも、絶対に、できるわけがない」
だから。僕は続ける。
「セオドールの言うことが、本当に理解できないんだ」
また、チクタクと時計の音がした。秒針が半周回った時、ダフネは静かに、だけれど強い口調で言った。
「私は、」
だけれどすぐにトーンを落とし、そして続けた。
「私は、ノットのこと、ノットの言いたいこと、少しだけ、わかるの。両親を亡くしたこともないし、愛してもらわなかったこともない。それでも、今は、あなたよりも、彼の気持ちの方がわかる。私は、ノットと少しだけ、昔から似ているの……」
その声はひどく悲しげで、ひどく儚くて、なんだか僕も、ものすごく、悲しい気持ちになった。
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作者名：あんころころもち x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年5月13日 9時
