穴熊の女 ページ23
「そうか」
レギュラスの死を知った彼は、ただそれだけ言った。それ以外に、言わなかった。少しだけ、小ばかにしたように笑いながら。
酷い違和感が体を襲う。なぜこの人は、あんなにも目をかけていた青年のことを、そんな風な態度で見えるのだろう。世界で一番優しい人であるはずの彼がなぜ。
「レイチェル。どうかしたのか？」
その言葉に、私は雑念を振り払った。
「なにもございません、我が君」
何を愚かなことを考えているのだ。自分にはこの人しかいないのに。この人がいなくなれば、自分には何も残らないのに。この人を疑おうだなんて、なんて愚かなことを思ったのだろう。
「ただ、少しだけ残念ですわ。この世界に残っていれば、彼はきっとあなたの優秀な右腕になったでしょう」
「右腕？」
彼はせせら笑う。私はその笑みが信じられなくて、つい凝視してしまった。
「馬鹿を言うな」
「……」
「あのような小物、使い捨てにすぎん」
知らない人の前に放り投げられたような居心地の悪さ。いつも親愛する彼が、敬愛する彼が、大好きな彼が、私の知っている人ではない気がした。
「オリオンの息子だと聞いてどのようなものかと思ったが、まったくもって役に立たなかった。お前の方がまだマシだ、レイチェル」
「……」
「レイチェル？」
「ありがたき、幸せですわ。我が君」
しかし、彼に褒められると、先ほどのことなどどうだってよくなるほど幸せになる。私の未来は彼がそばにいることで成り立つのだから、この程度の小さなことになど、目をつむっていればいいのだ。
「……」
しかし私は、彼にレギュラスの真相を伝えることは出来なかった。それが、私にとって人生で二度目の、彼への反抗であった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 528人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハリーポッター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あんころころもち@多忙(プロフ) - マニ。さん» ありがとうございます🫶 そのお言葉を励みにがんばります！ (3月7日 2時) (
レス) id: e53fc357d1 (このIDを非表示/違反報告)
マニ。(プロフ) - あんころころもち@多忙さん» ✉️。こっちの作品も面白いです！後だと茶番の方とか遅れてごめんなさい💦、これからも更新応援してます。☺️ (3月5日 21時) (レス) id: 861062e758 (このIDを非表示/違反報告)
あんころころもち@多忙(プロフ) - あまねさん» やたーーーありがとうございます❤️ (9月16日 15時) (レス) id: 59f64f1814 (このIDを非表示/違反報告)
あんころころもち@多忙(プロフ) - ｴﾇｴﾇさん» ありがとうございます☺️しっかり闇の帝王なヴォルさんを作りたいがための作品です！読んでくださってありがとうございます〜❤️ゆっくりな更新ではありますが、よろしくお願いいたします🙇 (9月16日 15時) (レス) id: 59f64f1814 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - たああああああああすき (9月9日 16時) (レス) @page37 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2021年8月25日 18時
