親愛なる君へ 10 ページ10
『この3ヶ月、ずっと拓司くんからの連絡を待ってた。だって私には、待つことしかできないから。忙しいあなたに“会いたい”なんて我儘を言えるような勇気はなかったの』
それは初めて聞く彼女の心の叫びだった。
『やっと連絡が来て、死ぬほど嬉しかった。でも同時に、その次にまた会えるのはいつになるんだろうって死ぬほど寂しくなった。私はこの3ヶ月抱き続けた苦しさを、また味わうことになるのかなって』
俺は口を開けたまま呆然とするしかできなかった。
そんな引き裂かれるような苦しさを、ひどく胸を締め付けるような寂しさを、彼女に抱かせていたなんて。
ごめん、と一言謝ることが精一杯だった。
彼女の思いに触れ、俺の心はギシリと軋んだ。
俺よりも彼女の方が何百倍も何千倍も傷ついているのは分かっていた。
それなのに、ひりつく胸の痛みを癒やすすべを俺は知らなかった。
別れたくないんだ、と馬鹿みたいに繰り返す。
もう寂しい思いはさせないだとか、俺の悪いところは直すからとか、そんな薄っぺらいことを言える余裕すらなかった。
俯きながら服の裾をギュッと掴み、駄々をこねる子供のように唇を噛み締める。
そんな俺を見かねた彼女は、ゆっくりと口を開きながらある提案をした。
『じゃあ、もし1年経ってもお互いを忘れられなかったら、いつも一緒に行ったあのカフェで待ち合わせしようよ。またこうして2人で会えたら、もう二度と離れない。例えその先に何があったとしても』
そう言った彼女の瞳からは、一筋の涙がこぼれていた。
俺がその涙に弱いことは、知っているだろうに。
一縷の希望が消えることなかった。
だが、それは消えたも同然の光だ。
彼女と笑い合う未来を、俺はまったく想像することができないのだから。
おそらくそれは、彼女がついた最初で最後の優しい嘘だ。
口ではそんな烈しいことを言ってはいるものの、1年後彼女が姿を現す可能性など、万に一つもあり得ないのだろう。
俺は両目から涙を溢れさせながら、嗚咽を漏らし咽び泣く。
―それでも俺は、また会えますようにと願うほかないのだ。
続く (更新停止中)
お気に入り登録で更新通知を受け取ろう
←親愛なる君へ 9
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Annie(プロフ) - 朔さん» 朔さんコメントありがとうございます！更新はゆっくりですが頑張りたいと思います(^^) (2021年5月14日 19時) (
レス) id: 8c53967ba8 (このIDを非表示/違反報告)
朔 - 面白いです！！更新頑張ってください (2021年4月28日 20時) (レス) id: 06e8a73e80 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Annie
| 作者ホームページ：https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時：2021年2月15日 18時
