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『伊沢さんにハグできる私は、世界で一番の幸せ者ですね』
慌てて付け加えたようにそう言ったものの、彼は私を抱きしめ返してくれない。
さすがにわざとらしかっただろうか、と不安に思っていると、彼は私にしがみつかれたままだらんと下ろしていた両腕を天高く掲げた。
彼のその行動に疑問を持つ間もなく、私はその両手によって強い力でぎゅうっと抱きしめられる。
『く、くるしい』
呼吸もままならないほど肺を圧迫され、少しだけ彼から離れようとしたものの、私を抱きしめる腕がそれを許さない。
これではハグではなく、まるで技でも決められているようではないかとさえ思ったほど。
命の危機を感じた私は、彼の後ろに回した手でその背中をバンバンと激しく叩いた。
すると、彼は意外にもすんなりと私を解放してくれたのだが。
強く抱きしめたり、あっさり解放したりと、彼の行動に違和感を抱いた私は、呆けながら彼の顔を見上げる。
そこには、私が想像していたどれでもない表情を浮かべる彼がいた。
真顔のようにも見えるのだが、どこか寂しそうな。
普段あまり見ることのできない伏せ目がちな彼。
『どうしてそんな顔をしてるんですか?』
まさかまだ拗ねモードが続いているのだろうか、と少し身構えてしまったのだが、私のその予想は外れていることを彼の言葉で知ることになった。
「…嬉しくて」
だが、その言葉と表情は明らかに矛盾を起こしていた。
少しも嬉しそうな顔には見えなかったのだ。
私が驚きながら彼を見つめていると、その真意を語り出す彼。
「幸せ者なのは、俺の方だよ。大好きな彼女をこうして毎日抱きしめることができて」
ぽん、と私の頭に彼の大きな手が置かれる。
「ありがとう。いつも俺のそばにいてくれて。良かったらこれからもそばにいてくれたら嬉しいな」
柔らかく微笑みかけられ、その笑みがあまりに綺麗で私は思わず息を飲んだ。
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年8月5日 12時