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数分後、ふと扉の向こうから控えめなコンコン、というノックの音とともに。
「…Aちゃん、ごめんね」
という彼のしゅん、とした声が聞こえてきて。
私は目をゴシゴシと手でこすりながら、必死に涙を止めようとした。
こんなところに立て籠もり続けることができるなんて、まったく思っていない。
まだ彼を許すまでの心の落ち着きは取り戻せていなかったが、それでも私は会議室の鍵をガチャッと開けた。
しょんぼりした彼とご対面。
鏡など見なくても自分の目が真っ赤になっていることは分かっていた。
涙目のまま彼を睨むと、さらに悲しそうな顔をする伊沢さん。
「ごめんね。さっきは思わず何も考えずに言っちゃったけど、Aちゃんのこと嫌いなんて思ったことないから」
彼は私を抱きしめていいのか悪いのか分からず、ひたすら戸惑っている様子で。
一刻も早く抱きしめてほしかった私は、自分から彼に抱きついた。
これでもか、というくらい彼の背中に回した腕に力を込めてみたのだが。
彼は苦しそうな素振りなど一切見せず、私を優しく抱きしめてくれた。
いつもの伊沢さんだ。
そう思いながらホッと安堵の息をつく。
だが、これで仲直りということになんてさせるつもりはない。
私は彼から少しだけ身体を離し、その瞳を見上げた。
『…好きって言ってくれたら許します』
その言葉に彼は一瞬驚いた表情を浮かべた後、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑って。
「ごめん。大好きだよ」
そう言って、また柔らかく私を抱きしめてくれたのだった。
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年8月5日 12時