今日の二人【QK】 (ページ17)

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―3分、いや5分ほど経過しただろうか。

もしかしたらもう少し経っていたかもしれない。
そんな時。

ふと、私の右隣に人の気配を感じた。

ほかのお客さんが本を探してるのだと思い、さして気にも止めなかったのだが。

「お姉さん一人？良い趣味の本読んでるね。よかったら俺とデートしない？」

まさか自分に声をかけられているとは微塵も思わなかった私は、意図せずその声を無視してしまった。

聞いてる？という追い打ちをかけるような言葉に、それがようやく自分に問いかけられていることを悟った。

私に声をかけるなんて物好きな、と思ったが、その0.5秒後にはその声に大いに聞き覚えがあることに気づく。

勢い良く顔を上げれば、まさにそこには今私が持った本を書いた張本人がいて。

“なんでここに”とか、“こんな時まで彼の本を読んでいるところを見られて恥ずかしい”とかさまざまな思いが込み上げてきたのだが、一周回ってもはや笑えてしまって。

思わず吹き出しながら目を細める私を見て、彼もチャームポイントの八重歯を見せながら顔をくしゃくしゃにして笑った。

「ちょっとだけ早く着いたんだけど、目の前本屋で“まさか”と思ったらマジでいたわ」

そう言って必死に笑い声を抑えようとする彼。

驚くくらいに彼には何でもお見通しなんだなぁと思いながら、無事彼と会えたことに私は安堵の息をついた。

「ほら、映画始まるから行こうぜ」

彼はいつものように私に手を差し伸べてくれる。

だが。

『ごめんなさい須貝さん、その前にこの本買ってきていいですか？』

私の思わぬ一言に、彼は目をぱちくりさせた。

「え、もうすでに3冊持ってんじゃん」

彼の的確なツッコミが私に突き刺さる。
そう、彼の言う通りなのだ。

いくら好きな人の書いた本とはいえ、同じものを4冊も持つなんて。

それでも。

『今日のデートの記念で』

へへ、と照れ笑いを浮かべながら、私は手に持った本を両手でギュッと抱きしめた。