愛し方も知らない天才【QK】 (ページ8)

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愛し方も知らない天才8 ページ8

『…私のこと、避けてますよね』

それが紡がれた瞬間、俺の中の時が止まった。

咄嗟にお得意の嘘で誤魔化そうとしたものの、なぜか俺の声はほんの少しも出なかった。

『私が、告白したからですか』

次々に放たれる彼女からの責め立てるような問いに、俺は否定も肯定もすることができない。

黙ったままの俺に、彼女はついに嗚咽を漏らした。

『そんなつもりで、言ったわけじゃないのに…』

震える細い肩。
俯いて悲しみに暮れる彼女に、俺は何一つ言葉をかけることが出来なかった。

本当は、今すぐにでもこちらに抱き寄せたかった。
もう離さないというくらいに強く抱きしめて、彼女に愛を囁きたかった。

だが、それを実行しようと彼女の肩へ手を伸ばしたものの、俺はそのままギュッと拳を固めた。

この期に及んで未だに勇気を出せない自分に、腹が立った。

俺が彼女に好きなんて伝えるのは簡単なことだ。
ただ、そうすることで一時この場を収めたところで、どうせいつか彼女は俺から離れていく。
そんなのは、耐えられない。

彼女に嫌われて、離れて行かれたら俺は。

浮かんでは消え、浮かんでは消えていく最悪な結末。

何が何でも、それだけは阻止しなければならない。

俺が愚かにもそんな自己中心的なことを考えていると。
彼女は、ぽつりぽつりと心の内を語り出した。

『…ただ、どうしようもなく好きで。
振られることなんて承知の上で告白したんです。伊沢さんが私のことなんて何とも思っていないことは、分かってましたから』

涙混じりの声でそれを告げられ、俺は大きく目を見開いた。

何とも思っていないなんて。
こんなにも俺は。

そこまで思い浮かんだ言葉を、俺はすぐにかき消した。

それを思ったところで、彼女に告げることはできないのだから。

『片想いでもよかったのに、まさかこうして避けられて目も合わせてもらえなくなるなんて、思ってもみませんでした…』

しゃくり上げながら、懸命に言葉を続ける彼女。
俺は自分がしてきたことを一つ一つ思い返し、あまりに最低な己を殺したくなった。

『私のことは好きじゃなくていいです。でも、お願いですから今までと同じように接してくれませんか？私がそうさせてしまう原因を作ったのは分かってます。勝手なこと言ってるってことも。でも…』

彼女は涙に濡れて、もう何も言うことができなくなった。
声を上げて泣く彼女を、俺はただただ呆然と眺めることしかできなかった。