愛し方も知らない天才【QK】 (ページ5)

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愛し方も知らない天才5 ページ5

この日を境に、俺は彼女に近づかないようになった。

彼女が業務のことで話しかけてきても、適当にはぐらかして。
決してその目を見ようともせず。

訝しむ彼女からの視線に気づかないフリをして、仕事という名目でオフィスにもあまり行かないようになった。

家とオフィス外での仕事との往復をする毎日。

俺がいない時のことは、すべてふくらさんに任せてある。

優秀な社員がいると助かるなぁと馬鹿なことを思いつつ、俺は足を止めて空を見上げた。

黒に近い灰色の空。
鈍い光を放つ星を見つけ、俺はそれをぼんやりと眺めた。

すると、不意にズボンのポケットに入れていたスマホが震えたのを感じた。

ゆっくりとそれを取り出すと、メッセージが表示されていて。

“今日も来られないの？”というふくらさんからの不満と心配の言葉。
俺はそれに申し訳ないとは思いつつも、“しばらく行けないかも。いつも通り、お願いします”と返信をする。

今は、俺も彼女もお互いの近くにいない方がいい。

想いを消し去るには、きっと長い時間が必要だから。

そんな大人ぶったことを言ってはいるものの、彼女が俺といることで辛い思いをすることに、もうこれ以上耐えられそうになかったのだ。

こんな風に子どものように逃げることしかできない自分が情けない。

分かってる。
こんなことが永遠に出来るはずもないということは。

束の間の現実逃避。

そうでもしなければ、きっと俺は彼女の側にいたら、抱きしめてしまいたくなるだろうから。

手を伸ばせば届く距離にいる。
それは幸せなことであると同時に、俺にとっては不幸な事実だった。

年を取るごとに、驚くほど臆病になっていく自分を軽蔑する。

時間が経てば、きっと。
彼女の俺への気持ちなどすべて無くなることだろう。

俺が彼女のことを好きでなくなることなんてないけれど、彼女は違う。
これからいろんな人と出会って、自分の世界をどんどん広げていく彼女は、俺のことなんて忘れていくはずだ。

それでいい。
彼女の世界に俺は必要ない。

君を幸せにする自信もない俺は、いない方がいいんだ。