愛し方も知らない天才【QK】 (ページ3)

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愛し方も知らない天才3 ページ3

「本当にクイズ強いんだね。そんなにクイズばっかりやってて、好きな女の子とかいないの？」

ふと、テレビの収録中にそれを問われた。

相手は俺が子供の頃から活躍している有名俳優。
ずっとテレビ画面越しに観てきた相手が、いざ目の前にいるという状況に未だに慣れることができない。

彼とは今回が初めての共演で、あまりに緊張しすぎて冬なのに汗びっしょりな俺。

ただでさえそんな切羽詰まった状況だったのに、不意にそんな質問をされ、俺は何も言えなくなってしまった。

好きな女の子はいる。
決して口に出来ない相手。
本人にも伝えることの出来ない相手。

黙りこくる俺を見て、質問をしてきた彼だけでなく、他の共演者までもが首を傾げている。

駄目だ。
ここで黙れば、俺はその存在がいることを認めてしまうことになる。

いつもの作り笑いを浮かべた俺は、顔を上げながらこう言い放った。

「クイズに人生を捧げているので、そういう相手はいないですね」

あぁ、これで嘘をつくのは何度目だろうか。

突如湧き出てきた虚無感を胸の奥深くに無理矢理押し込み、ニコニコと笑顔を貼り付け続ける。

彼はそんな俺を懐疑心溢れる目で見つめた。

相手はベテラン俳優。
演技においてのプロ中のプロに、自分の拙い演技が通用するのだろうか。

先程までとは違う汗がツーっと背中を伝っていくのを感じる。
彼が眉をひそめながら鋭い目で俺を見つめ続けていると、司会者によって次のコーナーが紹介された。

途端に彼は、そちらの方へ視線を向ける。

助かった。
俺は額から流れ落ちる汗を懸命に手で拭いつつ、更に平静を装い続けた。

ドッドッとうるさいくらいに響き渡る鼓動の音は、なかなか治まる気配がない。

俺は彼女だけではなく、自分以外のすべての人間に嘘を吐き続けなければならないのか。

突然突きつけられた事実に、俺は目の前が真っ暗になった。

だが、それが自分の選択なのだ。
自分でそれを選んだのだから、例えそれが茨の道だろうが突き進まなければならない。

…好きがこんなにも苦しいなんて、知らなかった。

目を瞑れば浮かんでくる彼女の笑顔。

何も考えず子どものように、愛しい彼女に愛しいと言えたら、どんなに幸せだろうか。

そんなちっぽけな願望すら、俺には抱く権利もない。
彼女を泣かせて傷つけてしまうことしかできない自分には。

心にぽっかりと空いてしまった穴を埋める手段を、俺は一生知ることはないのだろう。
それが俺が背負うべき罰なのだから。