川上さんと初デートに行く話。

川上さんと初デートに行く話。13 ページ13

「うぇ。やっぱり歯磨き粉やん」

顔をしかめる彼と何が起きたのか理解できない私。

彼の指が？私の唇に触れた？

ぽかんと口を開けて呆ける私を見て、

「ん？どしたん？」

とけろりとしている川上さん。

なぜこの人は全くそういうことをしなそうなのに、さらりとやってのけてしまうのか…！

ブルブルと震えながら、私は急いでアイスをコーンごとバリバリと噛み砕いていく。

「え？何？」

挙動不審する私を見て、彼が若干引いているのを感じた。

だが、そんなこともお構いなしに私は無我夢中でアイスを食べるのだった。


あっという間にアイスを平らげた私は、彼を連れてアイス屋さんを後にする。

彼は不思議そうな顔をしながらも、私の後についてきてくれた。

『次はどこに行きま、』

そこまで言いかけて、私の血の気が一気に引いた。

あれ。
今度の月曜の講義って、確かレポート提出日だったのでは…？
やった記憶がないのだけれど…？

青い顔をしながら俯く私を見て、今度こそただならぬ様子だと悟った彼が

「どしたん？」

と心配そうに声をかけてくれた。

デートのことを考え過ぎて、レポートを1本書くのを忘れていた。

冷や汗がダラダラ流れ落ちる中、私は泣きそうな顔で彼を見上げる。

『月曜、レポート、私、』

完全にパニックになった私は、思いついた単語を羅列していった。
これでは何も伝わらないではないか、と心の中で自分を責めていると、なぜか彼はそれでピンと来たらしい。

「一回落ち着こ。大丈夫やから。今日やれば終わる」

それはつまり、私は今から帰ってすぐにレポートに取り掛からねばならないということだ。
彼とのデートを中断させて。

申し訳なさ過ぎて涙が浮かんでくる。
今にも泣きそうな顔で彼を見上げると、彼は優しく私の頭を撫でてくれた。

「俺とのデートなんて、これからいつでも出来るやん」

そう言って珍しくにこりと笑う彼の顔を見て、私はまた目に涙を滲ませるのだった。

「ほら、送ってくから」

彼に右手を取られ、私達は駅の方へと足を進める。

なんて私は馬鹿なんだろう。
せっかくの初デートだったのに。

ペンギンのぬいぐるみが入った袋をギュッと握りしめ、私は自分の情けなさを悔いるばかりだった。

そんな私の様子を見て、彼がふと口を開いた。

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