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午後3時を回った頃、それまで目にも止まらぬ速さでタイピングをしていた彼女が、ふと手を止めた。
ガタッと席を立つと、ゴソゴソと鞄から小さながま口を取り出し、高らかに宣言。
『コンビニでおやつ買ってきまーす!』
俺らに欲しいものはないかと尋ねた後、彼女はスキップをしながら一度オフィスを後にする。
本当にすごい上機嫌だなぁ。
彼女がいなくなり、俺は山本に声をかけた。
彼は無表情で俺の方へと目を向ける。
一連の流れを見ていたふくらさんとこうちゃんなら、俺が彼に“よくも彼女に告げ口をしたな”と責め苦を言うと思うだろう。
だが、それは違う。
なぜならこれは、俺が望んだ結果だからだ。
「山本、よくやった!」
俺は大きく手を叩きながら、彼への賞賛を示すのだった。
端から見ていた2人はわけが分からないといった様子でぽかんと口を開けている。
俺から賞賛を浴びる彼は、得意顔でもっと褒めろと言わんばかりに俺を煽り続けた。
「え?待って、どういうこと?」
なぜ告げ口をされて褒めるのかと、ふくらさんは疑問を顕にした。
ふふんとドヤ顔の山本を尻目に、俺は満面の笑みを浮かべながら詳細を説明する。
「俺が山本に、Aちゃんにこの前の収録の時のことを言ってくれって頼んだんだよ」
その一言に、さらに彼らの疑念は深まるばかりだったようだ。
「最近Aちゃんに嫉妬されてねぇなって思って。妬いてるところ見たいなーって」
信じられないとばかりに目を見開く2人。
山本は腕を組みながらうんうんと頷いている。
「は!?わざと不機嫌にさせてたってこと!??」
「うーんまぁそうなるかな」
懐疑心を持ったこうちゃんに尋ねられ、俺はそれをけろりと肯定してみせた。
「え、それでAちゃんの機嫌戻らなかったらどうするつもりだったの?」
ふくらさんからの猛追に、俺は息を一つついた。
「だって、俺だよ?不機嫌の彼女を上機嫌にさせることくらい余裕だよ」
それが何か?と言わんばかりに自信満々な俺。
2人は口を開けたまま硬直。
山本は手を叩いて爆笑していた。
「俺は可愛い彼女の嫉妬が見られて大満足。あーこれで今日も仕事頑張れる!」
よし、と気合を入れた俺は再び仕事に取りかかった。
しばらくの沈黙の後、向こうの方から「伊沢には逆らわないでおこう」「そうしましょう」とコソコソと何か聞こえてきたが、俺はそれを気にすることなく上機嫌でキーボードを叩くのだった。
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Annie(プロフ) - QK Loveさん» コメントありがとうございます!お楽しみいただけたようで何よりです(*´ω`*)もしよろしければ他の作品もお読みいただけましたら嬉しいです*° (2020年8月29日 23時) (レス) id: 8c53967ba8 (このIDを非表示/違反報告)
QK Love - ハツコメ失礼します。完結してからでなんですが、楽しく読まさせて頂いてました!文才とかその他諸々有りすぎて羨ましいです!!長文失礼しました。(すいません) (2020年8月29日 11時) (レス) id: 3f0e3f1478 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年6月12日 20時