初恋ノスタルジー【QK】 (ページ8)

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初恋ノスタルジー8 ページ8

良かった。
とりあえず迷惑をかける前に外に出ることができた。

かろうじて帰途に就くことに成功した私は、覚束ない足取りで夜の街を歩いている。

電車で帰るかタクシーで帰るか。
前者は途中で吐き気が催した時のことを想定すると避けるべきだし、かと言って後者はここから自宅までいくらの料金がかかってしまうのか。

だが、今はそんなことを言っていられない。
こうなってしまっては一刻も早く帰宅する方が先決だ。

早々に結論を出した私は、タクシーを捕まえようと踵を返した。
すると、途端に押し寄せる吐き気。

あ、やばい。

口元を手で押さえたままその場にしゃがみこむ。

目の前はチカチカと電気が走ったように光っていて、両腕にはびっしりと鳥肌が立っていた。

たった一杯飲んだだけなのに、情けない。

涙を浮かべたまま、しばらく立ち上がることができない。

すると。

「Aちゃん！大丈夫！？」

ふいに、誰かが私の背中をさすってくれる感覚がした。
その人の正体を探ろうとしたが、涙でぼやけてしまい、顔もよく見ることができない。

背中越しにその人の温かいぬくもりが伝わってきて、私は心の中で大きな感謝を伝える。

その後なんとか必死に吐き気を抑え込んだ私は、目尻の涙を指で拭い、その人の方へ振り返った。

『ありがとうございました…って、山本くん！？』

まさかここにいるはずのない彼がいるとは思わず、私は飛び上がるほど驚いてしまった。

「まだ顔色悪いよ。急に立ち上がらない方が…」

彼はなお、私を心配そうな瞳で見つめている。
だが、もう吐き気よりも動悸の方が勝ってしまって。

『なんでここに！？』

と周りを憚らない大きな声でそれを言い放った。

「だってAちゃん、さっき今まで見たことないくらい顔が真っ青だったから…心配で」

彼があまりにまっすぐに私を見つめるので、私はまた全身の血がドクドクと巡っていくのを感じる。

『そうなんだ、ありがとう！でももう大丈夫！山本くんの顔見たら元気出てきたよ！』

これ以上彼と一緒にいては、今度は別の意味で体調が悪くなってしまう気がした。
それに、せっかくの高級料亭での会食を中断させてしまい、彼への申し訳ない気持ちでいっぱいという思いもある。

『私は一人で帰れるから、山本くんはもう戻って』

精一杯元気な素振りを見せる私を、山本くんはただジッと見つめていた。

そして、やがておもむろに口を開いた。