初恋ノスタルジー【QK】 (ページ7)

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初恋ノスタルジー7 ページ7

「やぁ、楽しんでいただけてますかな」

髭を蓄えた初老のその人は、私に朗らかに話しかけてくださる。

『おかげさまで…。本日はありがとうございました』

私が慌ててお酒を注ぎながら挨拶をすると、

「こんなにお美しいのに、さらに優秀だとは。うちの社員として働いていただきたいくらいですな」

社長は瓶ビールを手に持って、私にも注いでくださる素振りを見せる。

『あ、すみません…。私お酒が飲めなくて』

申し訳ないことに、私は1滴もお酒を受け付けない体質だ。
成人式の時、初めてそれを口にした瞬間、目眩と吐き気でしばらく動くことができなくなってしまったのだ。

せっかく設けていただいた席なのに、と謝罪の意を込めて頭を下げる私。
だが、それでも社長は手に持った茶色い瓶を置くことはなかった。

「まぁまぁ、1杯だけならいいでしょう。今日は無礼講ですから」

お仕事をいただいた相手に、これ以上の失礼は申し上げられない。
離れたところからふくらさんや山本くん、伊沢さんが心配そうにこちらを見ていたが、私は大丈夫という意味を込めてぎこちなく微笑んで見せた。

『頂戴します』

恭しくグラスを手にした私は、彼から炭酸の弾ける黄色い液体を賜った。

覚悟を決めてそれをぐっと煽ると、途端に視界がぐにゃりと歪むのを感じる。

「おぉ、実はイケる口ですか」

嬉しそうな社長に、私は控えめに手のひらを出して首を振る。

『いいえ、本当にこの一杯だけで十分です。ご馳走様でした』

無理矢理作った笑顔は、おそらく初対面の彼なら騙せると思った。

案の定、私の異変に全く気づいていない様子の彼は、今度はふくらさんの方へと近寄って行った。

なんとかその場を切り抜けられたことを悟った私は、一気にガクリと脱力する。

気持ち悪い。

だが、ここはなんとか耐えなければならないところだ。

誰かが声をかけてくれた気がしたが、私にはもうそれが誰だか認識することもできなかった。

このままだと、確実に迷惑をかけてしまう。

私は一気にスクッと立ち上がると、焦点の定まらないまま、

『すみません、明日早くから予定があるもので…。本日はこちらで失礼させていただきます』

と慌ただしく挨拶を告げ、その場から逃げるように高級料亭を後にした。