伊沢さんに伊沢さんを布教してみた。 (ページ1)

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伊沢さんに伊沢さんを布教してみた。ページ1

ある日の動画撮影終了後。

やわらかなオレンジ色の夕日が差し込む中、皆が各々休憩時間をのんびり過ごしている。
先程までいつも通りテンションMAXで動画に臨んでいた伊沢さんは、皆の輪に入らずスイッチが切れてしまったかのようにスマホ画面をボーッと眺めていた。

言うなら今しかない。

『聞いてください、伊沢さん』

私が彼の前に立ち、声をかけてみる。
彼はスマホを握ったまま顔を上げて私と目を合わせた。

「ん、どうしたの？」

未だ虚ろな伊沢さんの瞳に、私はお構いなしに語りかける。

『大ニュースですよ！な、なんと！私の尊敬する伊沢拓司さんの今日のランチはパスタだったんです…！』

私が興奮気味にそれを伝えると、彼は一瞬だけ目をぱちくりさせた後、力なく笑うのだった。

「君もそうだよね。俺と一緒に食べたからね」

伊沢さんののほんとしたツッコミを華麗にスルーし、私はさらに続ける。

『伊沢オタクとして推しが何を食べているのか知ることができるのは嬉しさの極みです！昨日の晩御飯は何だったんでしょう…』

うっとりと目を細めながら感嘆のため息を漏らす私は、自分のスマホで“欅坂46にクイズで負けた伊沢拓司”アカウントを見つめる。

すると、彼が何かを思い立ち、すかさずスマホで何かを入力し始めた。
それが終わるのと同時に、私のTLに伊沢さんのツイートが出現。

“昨日の晩御飯は焼きそばでした”

私はそれを見つけた瞬間キラリと瞳を輝かせ、スマホを天高く掲げた。

『伊沢さん！昨日の伊沢さんの晩御飯は焼きそばだったそうですよ！！』

推しの情報をまた一つ手に入れることができた私は、嬉しさのあまりその場でくるくる回転し始める。

そんな私をまるで自分の子どもであるかのように慈愛に満ちた目で見つめる伊沢さん。

「よかったね、Aちゃん」

私はそのツイートに対してRTといいねを秒速で押した。

『あぁ、この溢れんばかりの伊沢さん愛を語れるお友達がいればいいのに…』

彼のすごさや格好良さ、その素晴らしさを誰かと存分に語り合いたい。
きっと私は三日三晩しゃべり倒したところでまだ足りないだろう。
ところが私にはそんな伊沢仲間が身近にいなかった。

誰かに布教したい。
誰かいないだろうか。

身近な人、身近な人…

ここで私はハッとかつてないほど素晴らしいアイディアを思いついた。