第四滑走 一般人 ページ7
「あらぁ、ミナコさんとAちゃん。
おかえりなさい」
そう言って僕を迎えてくれたのは勇利のお母さんの寛子さん。
外とは反対にゆ〜とぴあの中は暖房が効いており、とても暖かい。
今日はずっと外にいたから余計そう感じた。
「おかえり、Aちゃん」
寛子さんはまるで僕を本当の息子の様に、ニコッと笑う。
勇利とそっくりなその笑顔は、見る度にやっぱり親子なんだなぁ…と思う。
「ただいま、寛子さん」
そう返せば、僕のボサボサの頭を優しく撫でてくれた。
「ほら、お腹減ったろう。
カツ丼もう少しで出来上がるから、ちょっと待っててね。
さっきAちゃんの分外国人の方に出しちゃったから作ってるのよ」
そう言ってせかせかと調理場へ戻っていく。
「…外国人なんて珍しい」
そう呟くと、ミナコさんは盛大なため息を吐いた。
「そんな珍しいなんてもんじゃ済まないわよ。
きっと今頃勇利とお喋りでもしてるんじゃないかしら」
「え、勇利と!?」
僕がびっくりして反応すると、しまった…と口を抑える。
「まさか、とんでもないお客さんってその人のこと?」
「ええっと…まぁ…
あぁ!そう言えば私ビール冷やしてたんだ!!
そろそろ冷えてる頃かな〜」
「って、おい。
話そらすなよ←」
結局ミナコさんは、そう言って去って行ってしまい、ここに1人ポツンと置き去り状態。
…僕も玄関にずっといないで早く部屋に入ればいいのだが、到底そんな気にはなれなかった。
“勇利と話している外国人のお客さん”
それが誰なのかは全く想像つかないが、きっと僕がその人に対して好意を持てないことは確実だろう。
…勇利への外国人のお客さんなんて、フィギュア関係に決まっている。
思い出したくもない部分に、じくりと胸が疼く。
別に勇利が嫌いな訳では無い。
寧ろ早く言葉を交わしたい。
勿論それはフィギュアの話じゃなくて、向こうに行ってる間に彼女は出来たのかとか、どんなグルメがあったのかとか…そんな他愛もない話を望んでいた。
…とか言いつつ避けられない道なのは分かりきっているけどさ。
勇利がフィギュアをやっている時点で、彼の職業でもあるフィギュアから離れる事は出来ない。
僕も勇利の大会での演技はチェックしているし、応援している。
「…まぁ、挨拶だけでもしておくか」
そう、僕はただ一方的にフィギュアを嫌っているただの一般人なのだ。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時