第二滑走 彼女はミナコ ページ4
「ちょっと、アンタまたこんな所でフラフラして。」
不意に聞こえた声に顔を上げるとそこにはミナコさんが立っていた。
ミナコさんは、バレエの先生をやっている。
僕も昔習っていたことがあった。
彼女の姿は時が経とうと殆ど変わっておらず、自分だけが歳をとっているような感覚に陥る。
言わば年齢不詳と言うやつだ。
彼女の年齢は、ここ長谷津の七不思議とも言われる程。
「さっさとその流浪癖どうにかしなさい。
っていうか、アンタいつも以上に煙草臭くない!?
どんだけ吸ってんのよ!」
“もう、目を離すとすぐこうなんだから…”と言いながら僕の左腕を引っ張ってズカズカと歩く。
だけれど、僕はそのスピードについて行けずに足を縺れさせてその場に顔面を突っ込むハメになった。
そんな僕をみて、ミナコさんはキッと目つきをキツくする。
「アンタ、今日何食べたの」
その問に対して僕はギクリと肩を震わせる。
…確か前もこんなやり取りをした事がある気がする。
僕はチラチラとミナコさんの様子を伺いながら答える。
「何も食べてなi____」
「ちゃんと食べろ。
このガリガリ星人←」
「酷くないっ!?←」
すぐさまツッコむミナコさん。
そしてそれに対して僕もその流れに乗る。
そんな僕のツッコミにもお構い無しに、今度は僕の歩幅に合わせてゆっくりと腕を引っ張っていく。
表ではイライラと態度を露わにしているが僕の調子に合わせて歩いてくれている所は彼女のさりげない優しさだった。
“何故、他人の僕にここまでしてくれるのか?”
昔、そうミナコさんに聞いたことがあった。
その時…なんて答えられたんだっけ?
その答えはもう覚えてはいないけれど、ミナコさんや今お世話になっているゆ〜とぴあかつきの皆が、僕の側に居てくれているという事は確かだった。
こんな僕の側に…
「なに暗い顔してんのよ。
今日はゆ〜とぴあかつき名物のカツ丼よ〜」
「え、マジで!?
やった!丁度食べたかったんだよね」
ツンツンと脇腹をつついてくるミナコさんに、僕も笑って答える。
「あ、あと勇利も帰ってきたわよ。
…とんでもないお客さんも居るけどね」
勇利が…!
確か、最後に会ったのは昨シーズンのグランプリファイナル前だ。
あの試合勇利は6位だった。
6位でも世界の中でなので十分凄いのだが、あの後からは他の試合でもいい結果が出せずにいたのだ。
そんな勇利が帰ってきたのだ。
勇利が今どんな気持ちかなんて、嫌でも想像できた。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時