第二十七滑走 導くA. ページ30
「それじゃ、アタシそろそろ行くわ。
これからレッスン入ってるのよね〜」
ひらひら〜と手を振って立ち上がる。
普段通りのミナコさんだった。
それを見て何故か少しほっとする。
「あ、あと最後に」
部屋から彼女が出ていく瞬間、あっと思い出したようにこちらを振り向いた。
「ちょっとは進んでみても後悔はしないんじゃない?
案外そういうのっていけちゃうものよ」
じゃあね。
そう言って彼女は出ていった。
ミナコさんは僕がフィギュアを拒む理由を知りながらも僕にこの提案を持ち出した。
…その事に、一体どんな意味が含まれているのだろうか。
深い意味などないかもしれない。
ただ単純に、勇利の演技を一緒に見に行こうというお誘いであることには間違いない。
だけれど、ヴィクトルとユーリが“
他の理由があるのだと感じてならない。
何度も言うけど僕はフィギュアが嫌いだ。
勿論、勇利の事は応援してるしこれからもするつもり。
しかしそれとこれとは別問題な理由であって。
もし、僕がもう1度
もう思い出したくない。
忘れたい。
過去を消したい。
…最近、ストレスでどうにかなってしまうんじゃないかと切実に思う。
こりゃあ、あと数年もすればストレスにより
精一杯、思考を誤魔化そうとする。
そうでもしていないとやってけない。
…うん。
なにか別の楽しいことでも考えよう。
僕は違うことへ意識を持っていこうとしたが上手くいかなかった。
・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚
それからしばらくの間ぼーっとしていたが、結局頭の中は
『ちょっとは進んでみても後悔はしないんじゃない?』
帰り際、彼女が残した言葉。
『案外そういうのっていけちゃうものよ』
そのたった二文の言葉は、僕の心にまとわりついて離れなかった。
「僕は、一体何をしているのかな」
案外、端だから見たらどうってことないことなのかもしれない。
僕は何気なく壁にかけてあるカレンダーを見上げる。
あと数日。
温泉onICEの本番。
そこで、2人のユーリが滑る。
どうするべきか。
そんなことはもうとっくに答えが出ているはずだ。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時