第十九滑走 ロシアンヤンキー ページ22
なんと話しかければいい?
先ほどが叫んだのはロシア語だった。
ってことはヴィクトルと同じ…あぁ、ヴィクトル目当てのファンの子か。
でもそうなると何故僕を見て叫ぶ。
叫ぶほど僕は見た目が可笑しかったか!?
って、そんな事を考えている場合ではない。
簡単なロシア語なら理解できるつもりだけど…こんな時はなんて言えばいいだろう。
無難に「
…いやもういっその事急いでこの状況から逃げようか←
僕がオロオロとこの状況をどうすべきかと脳内会議を開いてる中、彼が先にサングラスとマスクをとって口を開いた。
「お前…もしかして、あの伝説のスケーターのAか?」
彼が紡いだ言葉はロシア語でなく英語だった。
僕のことを気遣ってだろうか。
しかし僕はそんな事はどうだっていいほどに取り乱した。
…彼は今“A”と言ったか?
そしてスケーターと、はっきりと言っていた。
…まさか僕の名前がが彼の口から出るなんてこれっぽっちも予想していなかったために、面食らってしまった。
先ほどとは違う焦りに戸惑う。
…ここで『はい、そうです』だなんて言って軽く済むものではない。
“A”はもういない。
まさかこんなところで僕を知っている人と会うなんて…なんてツイていないんだろうか。
「…君はヴィクトルに会いに?」
しばらくして、僕は先ほどの問には答えずに彼に質問した。
問いを問いで返すのは僕もやるせなかったが、答えることができなかった。
すると彼は、自分の言ったことがスルーされたことに一瞬目を見開いたが「はぁ…」とため息をついた。
「…そう言えば、アンタは昔ヴィクトルとよく一緒に居たよな」
…確かにそうだ。
昔は、ヴィクトルとはこんな関係じゃなかった。
一体この少年はどこまで知っているんだ。
まるで昔彼と僕が知り合いだったかのような口ぶりに驚くと共に、何もかも見据えていそうな真っ直ぐな瞳に少しだけ腹が立つ。
「…また無視かよ」
僕がしばらく無言でいると彼はチッ…という短い舌打ちの後にそう呟いた。
「とりあえずオレをヴィクトルのところに連れていけ。
知り合いなんだろ?」
そう言ってグイッと身体を前のめりにする彼はなかなか迫力がある。
と言うより、人にものを頼む時の姿勢としてちょっとどうかとは思うが。
僕は「あぁ…」と曖昧な返事をして歩き出す。
この時間は、きっと彼らはスケートの練習をしているだろうから。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時