第一滑走 流浪人と煙草 ページ3
僕は、息をふぅーっと吐く。
公園のベンチに座り、ぼーっと空を見上げる。
空はとても青くて綺麗で、それでいて手に届かないほど遠くにある。
子供の頃も、よくこうして空を見上げていた。
その頃は、まだ空が今よりも近くにあったような気がする。
僕はあの雲はドーナッツだとか、あれはカツ丼だとか、そんな愚にもつかない事を考える。
そんな事をしながら時が経つのをただ待つ。
雲が風になびいてゆっくりと形を変えていくのを見ていると、何か、心が安らぐ様な感じがした。
ふと、今日は煙草何本目だっけと思い出し箱を確認すると大抵後2〜3本で、その度に少し吸いすぎたかと思う。
煙草を始めたのは五年程前。
少しの冒険心と自分への劣等感から、気休めにと始めた煙草だったが、今では1日何本も必要な程に依存してしまっている。
僕は吸いかけの煙草を灰皿に捨てて立ち上がった。
いきなり動いたから、少し立ちくらみがしたが問題は無い。
伸ばしっぱなしのボサボサの髪の毛に煙草の匂いが染み付いたマフラー。
あまりにも白すぎる肌と如何にも不清潔そうな身なり。
しかもいい歳して公園のベンチで昼間っから日が暮れるまで煙草を吸っている。
…気付けば、僕はこんなにも落ちぶれていた。
そんなことを思うとなんだか可笑しくて自傷気味に笑う。
自らこの姿を望んだ筈なのに、いざなってみると後悔の念すら浮かんでくるとは。
それも人間の性というやつだろう。
人は消して満足はしない生き物だ。
自分に無いものを望んで、手に入れたらすぐに違うものに手を伸ばす。
何度も何度も。
そうやって新たなモノを手に入れるために生きていくのだ。
僕はふと、自分の手へと視線を落とした。
…僕の手は、もう何も手に入れることはできない。
僕の手は既に汚れたのだ。
こんな手で望んでも、一体何が手に入るというのだ。
…誰かが“神は全ての人に対して平等だ”と言った。
何を定義として平等と言っているのか知らないが、そんなのはただの偶像に過ぎない。
世界の根本は、不平等であり、格差だ。
テストの点数、走る速さ、絵の上手さ…何もかもが他人との比較で成り立つ。
その格差があるからこそ今の世の中があり、この国では学校という、格差のある集団の中で生きる術を学ぶ場へ、誰もが収容されるのだ。
“平等な世界”そんな場所が本当にあるとしたら、それは何億光年と未来の話か、はたまたこの命が尽きた後の世界だろう。
第二滑走 彼女はミナコ→←※お知らせ 2017/02/26最終更新
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時