第十六滑走 考え事 ページ19
〜ヴィクトルside〜
それからというものの、ユーリは口を噤んだ。
もうオレに伝える気はないらしい。
『どうして教えてくれないんだい？』『ねぇ、ユーリ』そう何度聞いても首を横に振るばかり。
結局は『ヴィクトルが自分で聞いた方がいいよ』と言いくるめられた。
…まぁ、それはごもっともなのだが。
何よりもAとの関係が気まづいのだ。
昨日のカレの態度を見る限り、オレはとことん嫌われている。
はぁ…
深いため息が漏れる。
やっと再開できたA。
Aが生きているとこの目で見てこの手で触れて確かめることが出来て、それだけで幸せだというのに、人間はどうも欲深な生き物らしい。
Aが行方をくらませて、たまたま出会った昨日までの空白の時間。
その間に一体何があったのか。
選手としてオレと大会に出ていた時もファンサービスを大切にする俺とは違ってAはとことんメディアを避けてインタビューだって殆ど受けないという面に嫌がる性格だった。
そんな事もあって世間では『性格、私生活共に謎な天才スケーター』『プライベートを一切明かさない孤高のスケーター』等という見出しのニュース記事が出回っていたほどだ。
中には『コミュ障』『引きこもりスケーター』と、酷い言い回しのものもあったが本人は全く気にしていなかったように思う。
それに、カレもしっかりと自分のプライベートを持っている。
クラシック音楽が好きとかSF者が好きとか、練習中によく話していた。
その話をユーリにもしているところを聞くと、昔と変わらないカレの面影がまだ残っているのだと少し安心した。
まぁ、ピアノとサックスを習ってたとかロックにハマってるとか、オレの知らないことを知るユーリに少しだけ嫉妬したのも事実で。
…オレはAの事をよくわからなくなってるよ。
考えても答えの出ない問を繰り返すように胸に
｢…ル……ヴ…クト…ヴィクトル!!｣
はっとして顔をあげる。
目の前にはユーリのどこか心配したような顔。
ついつい、考え込んでしまったらしい。
｢大丈夫、ヴィクトル？｣
｢あぁ…ちょっと考え事をしてただけさ｣
｢Aのこと？｣
｢…まぁ｣
｢教えて｣
｢…え？｣
｢Aのこと…ヴィクトルも何か知っているんでしょ？｣
ずいっと顔を寄せてくる。
…ユーリはこんなに積極的だったか？
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作者名：樹乃 | 作成日時：2016年11月5日 23時
