第十五滑走 二人の関係 ページ18
｢オレからも聞いていいかな｣
ヴィクトルがこちらを向いたまま尋ねる。
｢Aとは、どういう関係？
いつから知り合っているの？｣
なにか自分が悪いことをしたわけでもないのにドクンっと胸が脈打った。
…きっといつか聞かれるだろうと思っていた。
昨日の彼らのやり取り。
2人は知り合いのようだったけれど、なんだかギクシャクしているように見えた。
｢Aと会ったのは…3年前かな。
僕が今日みたいにこの近くでトレーニングしてる時に会ったんだ。
というより…その時Aが道で倒れてて。
それでゆ〜とぴあに運んだんだけど、行くところがないみたいでお母さんが一緒に住もうって言い出して…｣
｢…それより以前のカレことは何か知っているかい？｣
ヴィクトルの声は落ち着いている。
｢いや、何も…何度か今まで何してたのって聞いたこともあったけど…その度に辛そうな顔をして“ごめん”って言われて。
…そう言えば、僕は何もAのことは知らなかったかもしれない｣
｢それじゃあ、ほかの事でもなんでもいい。
ユーリが知ってること全て話して｣
言い方こそ優しいものの、そう問いただすヴィクトルは今までより切羽詰まっているようだ。
…どうして、彼のことをこんなにも知りたがるんだろう。
二人の関係は一体何なのか知りたいのはこちらだって同じだ。
｢えぇっと…Aは音楽が好きだって言ってた。
昔ピアノとサックスを習ったことがあって
だからクラシック音楽が好きだって。
あ、でもロックに最近ハマっててベースやりたいって言ってたかも…あ、でもこれ1年くらい前に聞いたことだけどね。
あとは…SF小説が好きで読んでるとか。
…痩せてるのはいっぱい食べれない体質？
とかって言ってたかな…？｣
こうして言ってみると、意外とAは趣味が豊富なのだと思った。
…結局あの後ベース始めたのかな？
でもA意外と忘れやすいし、自分で言っていたこともすっかり忘れていそうな気もする。
｢あ、｣
｢…どうしたの？ユーリ｣
ヴィクトルが顔をのぞき込む。
忘れているといえば、僕も重大なことを忘れていた。
｢いや、僕も今思い出したんだけど…Aっていつもマフラーしてるんだ。
今の季節はもちろんだけど、夏暑くなっても。
だから、何でだろうってずっと思ってて…でも…｣
｢でも？｣
｢…いや、なんかこれ言っちゃいけないような気がしてきた｣
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作者名：樹乃 | 作成日時：2016年11月5日 23時
