第十一滑走 heartache ページ14
“ごちそうさま”と言い、Aは立ち上がった。
気づけば、カツ丼を食べ終えて(4分の1残っているが)いた。
先程から、時の流れが早い。
…考え事をすると昔から周りが見えなくなるのは自覚していたつもりだったが、これ程か。
オレは部屋から出ようとするAの手を、無意識の内に掴んだ。
「へ…?」
Aは間抜けな声を出すが、オレは関係なく目を見つめて言った。
「…何で目逸らすの?」
自分でも疑う程に低い声が出たと思った。
これじゃあ機嫌が悪いのバレバレじゃないか。
Aは一瞬ビクリと肩を揺らすも、オレから腕を引かれ、抱き合うような姿勢になっている事の方が気になるのか、顔を真っ赤にさせて顔を伏せる。
そんな姿がつい可愛くて、昔のようだと感じて、思わずふと顔が緩んだ。
それがきっかけとなったのか、何を考える訳でもなく自然と言葉が口からこぼれ落ちる。
「…久しぶりだね。
本当に驚いたよ、まさかキミが勇利と一緒に住んでいるなんて思ってもいなかった…
…ずっと、キミを探していたんだ」
こうして想いを言葉に出してみると、益々歯止めが効かなくなりそうだ。
しかし、そんなオレとは裏腹に、Aから告げられた言葉は冷たいものだった。
「…貴方は何も変わってないんですね。
そうやって人を魅了する仕草も、優しさも、表情も…何一つ昔のままだ」
苦虫を噛み潰したように顔を歪めて、またもや俯く。
「…僕は違う。
もう“A”はいないんだ」
…どういう意味だ。
「ごめん…僕は戻れないんだ」
…何で、そんな顔をするんだ。
今にも泣きそうな顔に震える声…壊れて消えてしまうんじゃないかと思う程に、そう告げるAは儚く見えた。
…何も返せなかった。
ただただ、焦りと不安とが入り混じったように感情がぐるぐると渦を巻いて、かけてやる言葉が見つからない。
ふと、煙草の香りが鼻を掠めた。
煙草とAの匂いが混じり合った香り。
それが、昔のAと今のAの。
オレとAの境界線を引いてる様でどう使用もない劣等感に襲われた。
…腕が、離れた。
静かに、部屋を出ていくA。
顔は見えなかったが、その後ろ姿はとても小さく見えた。
…あの頃も、そうやってオレの前から姿を消したんだ。
オレが再会する前に最後に見た後ろ姿と今の後ろ姿が重なって見えた。
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作者名:樹乃 | 作成日時:2016年11月5日 23時