体内水分量98% ページ8
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彼がすなおな目で次々に感想を述べてるくれるから、わたしはもうすっかり機嫌がよくなってしまって、ミックスジュースをおかわりしてしまった。
これじゃあ親に褒めてもらいたい子どものようだ。
わかってはいても、いい子、と言って甘やかされるのはどうしても気持ちがよくて、やめられなくなってしまいそう。
夕方だったのだけど、彼の家はずいぶん日当たりがよくて、西日が斜めに床を光らせていた。
エアコンを付けていたから窓は開いていないのに、外の気配が充分に入り込んでくる。
夏も、もうすこしずつ傾いてきている。
蜜色に染まった入道雲。
「これ、さわってもいい？」
わたしは上機嫌で、彼の部屋をふらふらと探検していて、今まで知らなかった写真や本やDVDや絵をひとつひとつ眺めて、その中で、隅に置かれたアコースティックギターに興味をもった。
指板のところに、奇妙な柄が彫られている。
ソファの上で寛ぐ彼が、いいよ、と笑う。
散らかった床に座り込んで、わたしはそれを抱えてみた。
腿と膝と腕の間にぴったりと収まる。
近くに落ちていた薄いピックを拾って、弦を弾いた。
楽器不可のうちのマンションでは絶対に出せないような、伸びやかであざやかな音が響いた。
「弾けるん？」
「ちょっとだけ」
「なんか歌ってえや」
「いや」
自分でも不思議なほど、からからとたのしい声が出た。
なんでやし、とつぶやく彼の、ざらざらと掠れたひくい声をきいて、このひとはいい声で歌うんだろうなと、もう知っているくせに考えた。
麻結のDVDの中で、彼はいつもいきいきとして、汗を光らせて、びっくりするくらいたくさんの女の子の前で、歌ったり踊ったり楽器を弾いたりしている。
「…………」
「A腹減ってない？」
「やすださんきらい」
「えぇ、いきなり？」
愉快そうに笑う安田さんの声は、なんだかわからないけれど、とても美しかったいつか見た景色を思い浮かべたときみたいに、わたしの感情をゆらゆらと揺らして波立たせる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
頭のなかを揺れるくらげ。
わたしは昔からずっと、しんだくらげだ。
からだのほとんどがからっぽだから、きっと思い切りゆさゆさと揺さぶられてしまったら、薄いとうめいの皮膚が壊れてかたちを保てなくなって、海水といっしょになって失くなってしまう。
安田さんの正体が、海でなかったらいいのだけれど。
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みき(プロフ) - こちらの更新もありがとうございます！続きが読めて嬉しいです♪ (2020年9月13日 18時) (
レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
8七色8(プロフ) - 言葉のチョイスと浮かぶ情景がすごく好きです。どんな展開になっていくのかとても楽しみです。 (2019年9月13日 1時) (レス) id: 8c103056a2 (このIDを非表示/違反報告)
りい(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます。世界観や綺麗な文章が大好きです。主人公と似た部分も感じながら、こちらの中の安田くんに救われながら読ませて頂きました(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ更新大変かと思いますが、楽しみに応援しております。 (2019年9月11日 18時) (レス) id: 0f9ee8be01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2019年9月11日 3時
