傷ときりぎりす ページ5
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「俺、先生のこと前からかわいいと思ってたんだ」
街中で偶然会った生徒と、ばかなことに流れで食事に行くことになってしまった。
水泳部の男の子だ。
クラスの中でよく目立っている、明るい上に学業に関しても要領のいい子。
一丁前に口説くような誘い方をするから、おもしろくなってラーメン屋に来てしまったけど、よくよく考えたらこれはぎりぎりなのかもしれない。
職業倫理的な面において。
「おれ、キムチくさくない？」
と、わざとらしく顔を近づけてくるから、べつに、とこたえて軽くあしらってやった。
おとなをからかったらだめだよ。
そんな女ぶったことを言って。
きっとそういうビデオの見過ぎなんだろう、何もできなくてわかりやすく拗ねているわかい彼を見て、あのひとならもっとスマートに、ナチュラルにキスをするのにな、と思った。
わたしだって、あのひとからしたら充分過ぎるほどにわかくて、たぶん、ほとんどおもちゃと同じ。
その生徒とはほんとうに、ラーメン1杯だけ食べて別れた。
「ねーえ。お盆どうする？」
わたしたち姉妹は、お互いに計画性がない。
おそらくこの会話はもっと早いうちにしておくべきだったのだと思う、が、世間がすでに盆休みの連休に入っているというのに、麻結のフライト土産であるアロマなどというものを部屋で焚きながら、ふたりしてクーラーの冷風の下にだらりと転がっている。
マイペース、といえばまだ聞こえがいいかもしれない。
ぱらぱらとスケジュール帳をめくる麻結は、ほとんど眠りかけのわたしの肩を揺すり、どうする？と。
「…………めんどくさい」
「そうは言っても、お墓参りだけでも行くほうがよくないかなあ」
「お彼岸にいけばいい」
「でも、ご先祖さまが帰ってくるんだよ？」
きらいなのだ。
お盆とか正月とか、親戚が集まる季節の実家は。
「それに、お姉ちゃんも麻結も社会人になったから忙しくなったし、今年まだ一回しかママたちに会ってないよ」
わたしはぼうっと天井を眺める。
白い照明の光を遮るように、腕を目の前に持ってくる。
そこに残った古い傷痕。
たくさん血を流してはあんしんしていた、あの頃の。
「……お姉ちゃん寝るの？」
「うん」
「もう、風邪ひいちゃうからベッド行ってよ？」
虫の声がきこえる。
街のまんなかなのに、なんだかとてもよく響く。
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みき(プロフ) - こちらの更新もありがとうございます！続きが読めて嬉しいです♪ (2020年9月13日 18時) (
レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
8七色8(プロフ) - 言葉のチョイスと浮かぶ情景がすごく好きです。どんな展開になっていくのかとても楽しみです。 (2019年9月13日 1時) (レス) id: 8c103056a2 (このIDを非表示/違反報告)
りい(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます。世界観や綺麗な文章が大好きです。主人公と似た部分も感じながら、こちらの中の安田くんに救われながら読ませて頂きました(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ更新大変かと思いますが、楽しみに応援しております。 (2019年9月11日 18時) (レス) id: 0f9ee8be01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2019年9月11日 3時
