無力な少女 ページ42
.
夜は昏い。
昏くて、ふかい。
その果てのない底に押し流されていくようだった。
それはどうしようもなくわたしを呑み込んで、消化してしまおうと全身に絡みつく。
彼がまだ此処に留まって、煙草一本分の一服をしていたことくらい、すぐに察した。
新鮮な煙のにおいがした。
肩を掴んでいたその手が、手繰り寄せるようにわたしの腕を引いた。
「ちょ、どしたん?何かあったん?」
「………………」
「A?」
足下を見つめたままでいるわたしの、髪に隠れた顔をのぞきこむ彼が、はっと息を飲んだのがわかった。
ふっと表情が消える。
不思議そうにしていたその目が、痛いほどの真摯さをもってこちらを見つめる。
――――どうしたらいいのかわからなかった。
何もわからなくなるくらい、いまのわたしは混乱していた。
彼に縋ることも、その手を振り払うこともできないまま、ただじっと押し黙って自分の靴を見つめていた。
つやつやとした黒いローファー。
それは、闇に沈んで今にも地面と一体化してしまいそうだ。
「……おれんち、来る?」
彼の声が響いた。
わたしはこくりと、力なくうなずいた。
その腕にそっと肩を引き寄せられ、野良猫の気配すらない昏い駐車場で、何も言わずに抱きしめられた。
この一瞬。
わたしは無力な少女に戻った。
――――そんな気が、した。
to be continued.
702人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…!本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします! (2018年9月28日 0時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます! (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:べに | 作成日時:2018年9月11日 21時