支配者 ページ30
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太腿に乗せられた手。
いつの間にか、触れる距離にあった肩。
彼を見上げようと首を動かしたら、その前に、もう顔をのぞきこまれていた。
「――…」
暗がりで、しっとりと重ねられたキスは。
掬い上げるように一度触れ、それから短い休符を挟み、また押し当てられる。
彼はその間、想像を絶するような甘ったるい手つきでわたしの頬を撫でた。
舌先に、ほんのわずかに掠めた吐息が熱い。
気づけば貝合わせに繋ぎ留められていた、手。
「…………酔ってるん？」
彼が言った。
わたしはその、頬を、唇を撫でる親指の動きに抵抗できない。
正直。
だれでもよかった。
だれでもいいから、今、抱いてほしかった。
ぽっかりと口をあけた心の虚無が、焼けるようにじくじくと疼いて泣いていた。
久しぶりにことばで遊んだから、やっぱりすこし疲れたのかもしれない。
わたしは頬にある彼の手を掴み、そっと、それに唇を寄せる。
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「……お前、多重人格なん？」
仄暗い部屋の闇の片隅。
きらびやかな内装には目もくれず、シーツの海の底で、わたしは彼に
「ヒト変わるよなあ……」
彼の言葉の語尾に、苦しげな吐息が混じった。
求めるようにやさしく頭を撫でる手が、心地いい。
わたしは無心で舌を這わす。
手を使わず、たっぷりと唾液を絡め、犬のように。
「……しかも、なんでこんなに上手い？」
わたしが男を知ったのは、まだほんの子どものころだった。
その当時に比べれば、ずいぶん女になっただろう。
自分がもうおとなだと、自覚したことはこれまでに一度だってないけれど。
「A」
「なあ、お前いっつもこうやって男のん咥えてるんや？」
俯く姿勢のせいで顔にかかった長い髪を、そっと払いのける指。
蔑む言葉には慣れているけど。
このひとは、どうしてこんなにいとおしげな顔をするのだろうか――――
「も、ええって…………交代」
だれの支配も、侵略もゆるさないと決めているわたしは、肌に伸びてきた彼の手を払う。
濡れた口元を指で拭い、挑発的に微笑んでみせる。
「要らない」
わたしはわたし自身にですら、支配されないと約束しているのだ。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
