陸に干上がる人魚 ページ19
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注文を取りに来た店員が、奇妙な位置に座るわたしを見てぎょっと表情をゆるませた。
彼はやっぱりたのしげに笑っていた。
わたしは黙ったまま、水をひとくち飲んだ。
「改めて自己紹介な」
遠くに聞こえる店のざわめき。
彼は改まったように背筋を伸ばし、それから咳払いをする。
「俺、安田しょーたっていいます。
職業はぁ、日々女の子たちに夢を与えてるで」
そう言って、まるっこい前歯をむきだしに悪戯っぽく笑った。
少年みたいだと思った。
もっとも、それは彼の言う『女の子たちに夢を与えている』職業のせいだろう。
「自分、俺のこと知ってるんやんな？」
「……まあ」
「でも、どっから考えてもファンの子ではなさそーやんね？
ほなら言うけど、俺関西の出身やねん。尼崎って知っとる？ほら、ダウンタウンさんの出身の……」
なんというかこのひとには、ふつう歳を重ねるにつれ培われていくモラルのようなもの――に、縛られていないひと特有の奔放さがあるように思う。
そうして同時に、何かがひどく欠落している。
その"何か"の正体はわからないけど。
彼はたぶん、こっち側の人間だ。
「…………」
だからと言って、わたしとこのひとは断じて重ならないだろう。
似たものを持っていても、感じ取れるものがかけ離れている……ように、思う。
彼が光なら。
わたしはきっと、深海のような、闇。
「変わってるね」
わたしは言った。
彼はちょうど、マンションで飼っているという魚の話をしているところだった。
そのはっとするような濃いアッシュのひとみがこちらを見て、そして崩れるようにふわりと破顔する。
「あは、よく言われる」
「…………」
「Aも言われるんちゃう？自分、かなり個性的やと思うで？」
魚。
わたしは想像する。
四角く切り取られた海の中で、泡を吐く
自分みたいだと――…そう思う。
わたしは、生まれる場所をまちがえた魚だ。
「ねえ」
からん。
水に浮く氷が涼しい音を立てた。
「わたしが瀬田藍子だってことは、だれにも言わないでほしい。
それと……わたしについて知ったこと。
全部、忘れてほしいの」
言いながらわたしは、くしゃくしゃになったメモ用紙をテーブルに置いた。
その紙の中で、彼の書いた11桁の数字は頼りなく身を縮めている。
まるで怯えるみたいに。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
