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〜和side〜
誰も居ない広いリビングに
カチャカチャと食器を洗う水音だけが
やけに大きくこだまする。
激しく水を噴き出していた蛇口を止め
洗った皿達を布巾で拭いていき
ガラス張りの食器棚に１枚１枚収納していく。
この一連の動作を覚えたのは
もういつ頃の事だろう。
例え体調が悪かろうが熱があろうが。
この家の家事は全部自分が担当する事になっている。
それに対して今まで何ら不満は
持ち合わせて居なかったが
ふと、シンクを除くと
一際大きな土鍋が目に入った。
これって………
5色の桜の花びらが所狭しと装飾されている
個性的なデザインのもの。
これは恐らく昨夜翔さんが
用意してくれたお粥の鍋。
僕1人だけの為に、彼自身が料理を
振る舞うなんて今まで一度も無かったのに。
蓋の鍋を水気を切った手で
そっとコーティングされた表面を
意味もなく撫でてみる。
冷水にさらされたそれは
もう温かさなど
とうに失っている筈なのに
どこか心に響くものがあった。
これが
あの人なりの優しさだと受け取って
いいんだろうか
時折表れる、裏の顔に見え隠れする
彼の人間的な感情。
今朝だって
『まだ寝てろ
先生には俺から言っておく』
無理に登校しようとした僕を制したのは
他でもない翔さんで
生徒会長でもある彼のことだ。
他の教師の監視下でもある教室内に
病気である自分がいるだけで迷惑に
思っただけかもしれない。
それとも…
時々、彼の本当の"顔"というものが
どこにあるのか分からなくなる。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿翔くんを見誤らないで
大野さんの昨夜の哀しそうな瞳が目に浮かぶ。
それはまるで全てを見透かしている様な
そんな風にも見て取れた
未だに熱でぼーっとする頭で
ひとりそんな事を考えていた。
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作者名：星羅
| 作成日時：2017年7月14日 2時
