硝子の涙 2【OS】 (ページ30)

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～智side～

｢ゆらりゆれる。光一つ。
痛み癒すことなく消える…｣

音楽に沿って具材を次々とリズム良く刻んでいく。

キッチンには、おいらの鼻唄と具材を切る音。

そしてiPodから流れる切なくて哀しい音楽が
調和していて独特の世界が広がっている。

思いの外、今日のテストの手応えが半端なくて
超絶絶好調・超のおいら。

無意識に鼻唄が出てしまう位に調子が良かった。

某・国民的アイドルの曲を選んだ理由は、
歌詞がまんま、おいらの過去に似ていたから。

そのアイドルグループのリーダーが演じた
ドラマを観ていると、兄さんと主人公が
ぴったり重なって見える気がして。
何となく親近感が湧いた。

とても笑顔で見れる様な内容ではなかったけど。

…にしても同姓同名だなんて、今時珍しいよね。

卵を素早く混ぜながら、そんなことを考えていた。

｢んふ。翔くん達、喜ぶかなぁ…｣

フライパンを彩る鮮やかな黄色い液体から
香ばしい香りが辺りに漂う。

今、俺が作っているのはオムライス。

自分も忙しいだろうに、時間を割いて勉強を
教えてくれた翔くんに彼の大好物のオムライスを
お礼に作ると、さっき約束したから。

ほっぺたいっぱいに詰め込んで咀嚼する
リスみたいな幼馴染みを想像すると
つい、頬が緩む。

そういえば…

｢…あいつは何が好きなんだろう。｣

寡黙な彼は、翔くんと違って
食べ物は愚か、趣味さえ知らない。

一緒に暮らしている筈の翔くんも、
彼が普段何をしているのか検討もつかない位。

｢…今度聞いてみよっと。｣

そんな決意を胸に、調理を進める。

そして数分後。

｢…あ、我ながらうめぇ｣

完成したものを味見して自画自賛。

さぁて…隣のリスさんに届けに行きますか。

盛り付けたお皿にラップを掛けて
翔くんの家に向かう。

｢うわっ…あっちぃな…｣

夏の夜風が、じんわりと肌にまとわりつく。

門を潜り合鍵を手にドアノブを回す。…が。

ガチャっ_____

｢…あれ？空いてる…｣

ヤケに静かな家内に

違和感を覚えた。

｢…翔くん？…和？｣

耳を澄ましてみると

｢…さん…っ…！！！｣

和の一際大きい声が聞こえた。

滅多にない彼の怒号の様な高い声に
鞭を打たれるように、足が素早く反応する。

そのまま、微かに灯を漏らしている
リビングの扉に急いで手を掛けると…

広がっていた光景に俺は

自分の目を疑った。